不当な強制執行 詐欺の被害金流出を許すな
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投資詐欺などの被害者救済に充てられるべき資金が、凍結された銀行口座から不正に引き出されていたとすれば、看過できない。資金の流出を防ぐ対策が急務だ。
警視庁は、東京都内のコンサルティング会社の実質的経営者ら3人を詐欺容疑などで逮捕した。
3人は、都内のシステム関連会社に650万円を貸し付けたように装い、凍結されていたこの会社の銀行口座に強制執行をかけ、610万円を引き出してだまし取った疑いが持たれている。
強制執行は、債権者の申し立てを受けて、裁判所が債務者の財産を差し押さえる手続きだ。今回は、この手続きが悪用された。
凍結口座には投資詐欺の被害金がプールされ、警察からの通報を受けた銀行が、振り込め詐欺救済法に基づき出金を止めていた。
コンサル会社は、複数の金融機関の凍結口座に20件以上の強制執行を繰り返し、4億円を超える資金を引き出していた。
この会社は、投資詐欺グループなどの依頼で凍結口座から資金を回収していたのではないか。警視庁は全容解明を進めてほしい。
見過ごせないのは、強制執行の申し立てに公正証書が使われた点だ。公正証書は、法相が任命した公証人が、金銭の貸し借りなどを当事者の面前で確認し、その内容を法的に証明した書面である。
コンサル会社は、同じ公証人が作成した8通の公正証書を強制執行に使っていた。この公証人はウソの説明を信じ、虚偽の内容の公正証書を作成したことになる。
公証人は元検察幹部である。捜査経験も豊富な法律のプロがウソを見抜けなかったのか。法務省は、公正証書の作成経緯を調査している。ほかにも同様のケースがないか詳しく調べるべきだ。
凍結口座の取り扱いには金融機関も苦慮している。コンサル会社による強制執行を巡っては、出金に応じなかった銀行もあった。口座名義人の情報に不審な点などがあったためだとされる。
ただ、裁判所が命じた強制執行への対応を、銀行が独自に判断するのは難しい。金融庁による統一的な指針などが必要だろう。国は、詐欺などの被害者以外は、凍結口座への強制執行をできなくすることなども検討してはどうか。
特殊詐欺やSNS型詐欺の被害額は年間2000億円近い。昨年度は凍結口座から49億円が被害回復に充てられた。被害者を救済するためには、これ以上、不当な強制執行を許してはならない。