芥川賞直木賞「該当作なし」に書店関係者や作家が反応「頭が真っ白」「5度落ちた」

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該当作なしとなった第173回芥川賞と直木賞(16日、東京都千代田区で)
該当作なしとなった第173回芥川賞と直木賞(16日、東京都千代田区で)

 第173回芥川賞・直木賞が27年ぶりに両賞とも「該当作なし」となり、話題を集めている。厳しい選考によって賞の権威を高めたのか、出版不況に悩む本の世界に冷たすぎる結果だったのか。作家や文芸評論家、書店関係者らの意見を聞いた。

いぬい・あきと 1971年、東京都生まれ。2014年に、芥川賞候補にもなった「すっぽん心中」で川端康成文学賞を受賞した。
いぬい・あきと 1971年、東京都生まれ。2014年に、芥川賞候補にもなった「すっぽん心中」で川端康成文学賞を受賞した。

まずは書き続ける 誰もが…作家 戌井昭人さん 53

 初めて芥川賞の候補になったときのことは今も覚えています。当時はアルバイトで塩を袋に詰めたり、オートバイで物品を運んだりしていました。その自分が、愛読する町田康さんも受賞した有名な賞の候補になる。新聞にも候補作の筆者として名前が載った。すごくワクワクしました。

 「受賞作なし」だったのは、「ぴんぞろ」で2回目の候補になったときです。選考の経過で「惜しかった」と聞き、「文芸春秋」に作品が掲載されました。「それなら賞をくれよ……」とも思いました。

 今年、『戌井昭人 芥川賞落選小説集』(ちくま文庫)を刊行しました。2009年から14年に候補となった5作を収めています。本来ならば、1度目の候補で はじ けるように受賞するのがよいのかもしれません。僕もそうなれば良かったけれど、5回候補になったからこの本が生まれました。

 今回芥川賞、直木賞の受賞作はなかったそうですが、候補の作家側は、大丈夫だと思います。自分の最終的な目標が、賞という作家はあまりいないはずです。賞を受ければ、読む人が広がる喜びはあります。ただ、誰もがまずは書き続けたいはずです。結果にかかわらず、書く人は書くのではないでしょうか。

 選考委員は賞の重みや受けるありがたみも分かっています。それでも受賞作が出なかったのは、いかに公平に、 真摯しんし に賞を選んでいるかを表しています。

 候補になったときのワクワク感をもう一度味わいたいと思うときもあります。この秋、読売新聞で連載した小説『おにたろかっぱ』が出版される予定です。芥川賞の候補にはもうならないと思うので、今度は直木賞の候補にしてほしい。賞もいただけるものなら、ぜひいただきたい(笑)。(文化部 待田晋哉)

たなか・かずお 1974年、富山県生まれ。慶応義塾大経済学部、文学部卒。法政大教授。文芸評論家としても活躍中。
たなか・かずお 1974年、富山県生まれ。慶応義塾大経済学部、文学部卒。法政大教授。文芸評論家としても活躍中。

絶対的な文学観示せない…文芸評論家 田中和生さん 50

 特に芥川賞の現状を深刻に受け止めました。ある程度読者フレンドリーな作品に授賞してきたエンターテインメント文学の直木賞に対し、かつて純文学の芥川賞は仮に多くの読者にとって面白くない作品でも「これは純文学として良い作品だ」と文学観を示してきた。純文学とは何か、物差しが広く共有されていたから、絶対評価に近い形で受賞作が選ばれていたのです。

 石原慎太郎さん、大江健三郎さん、河野多恵子さんをはじめ戦前に生まれ、戦後新たな文学を作り上げた自負を持つ作家には、文学を巡り絶対的な物差しが共有されていたと思います。だから実験的な候補作が現れても、「大江文学と比べてどうか」などと議論の基準となっていた。逆に、現在は絶対的な基準となる作家や作品が不在なのです。

 この十数年間、芥川賞はダブル受賞の回も頻繁にありました。共通の物差しがなくなり、選考委員それぞれの文学観を擦り合わせて相対的に作品を評価してきた結果であり、可能性のある作家にどんどん賞を出してきた。出版不況の現在、売れるかどうかを度外視して、「この作品には文学的価値がある」と言うことができなくなった。

 相対評価が極まったことで今回、芥川賞は自らの文学観を示すことができなくなったのではないでしょうか。本屋大賞があるのですから、芥川賞は回数を減らしてでもじっくり、「これが自分たちの文学観だ」と物差しを示す努力をしてほしいと思います。

 今、学生の中では小説より短歌や詩を書きたがる人が増えています。詩歌のレベルでゼロから言葉を作り直しているように映ります。明治の言文一致運動や戦後新たな文学が生まれた時期と、雰囲気は似ているのではないかと期待しています。(文化部 武田裕芸)

うちだ・たけし 1969年、東京都生まれ。三省堂書店に約30年間勤務。現在はNPO法人本屋大賞実行委員会の理事も務める。
うちだ・たけし 1969年、東京都生まれ。三省堂書店に約30年間勤務。現在はNPO法人本屋大賞実行委員会の理事も務める。

「せめて1作」書店の本音…ブックジャーナリスト、元書店員 内田剛さん 56

 今回、一文芸ファンとしては、これも 醍醐だいご 味でしょうがないという気持ちもありますが、元書店員としては「そんなことがあるんだ」と頭が真っ白になりました。

 書店に勤めていた頃は、選考会で受賞作が発表されると、当日の営業時間中に陳列を変えられるように、事前にパネルや帯を準備してそわそわと速報を待ち構えていたものです。

 直木賞の受賞作は、毎回一定の売り上げが見込め、芥川賞でも又吉直樹さんの『火花』や村田沙耶香さんの『コンビニ人間』が受賞した際は爆発的な人気になりました。また、受賞作だけでなく、波及効果で同じ著者の既刊本も売れます。

 今、書店の現場は本当に厳しくなっています。今年は昨年と比べてもバンバン売れるような作品が少ない印象で、例年以上に「この賞に懸けよう」という書店員もいたと思います。売り上げを考えると、せめて1作でも出してほしかったというのが本音で、書店員の多くは想定外の事態に言葉を失ったのではないでしょうか。

 一方で、長い目で見るとプラスもあると思っています。両賞とも該当作なしになったことで大きなニュースになりました。広く一般に芥川賞や直木賞がどんな賞で、どのように選ばれているのかを知ってもらう機会になり、本を多くの人の日常に戻すチャンスになり得ると思います。

 書店では、パネルやポスターとともに、受賞作を店の一番目立つところにどーんと置くという構想がなくなり、店の一等地が空白になりました。販売のプロである書店員の腕の見せ所です。各書店がいろんな知恵やアイデアを絞り、書店の店頭が熱くて面白くなっていると思います。今こそ、いろんな本屋に行ってほしいです。(文化部 北村真)

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