無罪確定の元保育士、国賠提訴へ…証拠のLINEデータ開示遅れ「不利益」
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勤務先の保育園の園児に対する暴行と傷害の罪に問われ、無罪が確定した元保育士の刑事裁判を巡り、検察側が当初、無罪の根拠となった証拠を「存在しない」と弁護側に回答していたことがわかった。警察が証拠を十分に確認していなかったためとみられる。男性側は「証拠開示が遅れ、不利益を受けた」として国家賠償請求訴訟を起こす方針。
男性は、東京都日野市の保育園に勤務していた吉冨弘敏さん(36)。2020年に園児2人の体を揺さぶってけがを負わせたなどとして、23年に警視庁に逮捕された。
関係者によると、吉冨さんの複数の同僚が同庁の事情聴取で「吉冨さんの暴行を目撃した」と話し、東京地検立川支部がこれを踏まえて起訴したが、吉冨さんは暴行を否定。弁護側が同僚の携帯電話のLINE履歴を含む証拠を開示するよう求めたところ、検察側は「LINEデータは存在しない」と答えた。
翌24年の公判に同僚らが証人出廷し、「暴行を見た」とする一方、「携帯電話のデータを警察に任意提出した」と述べた。検察側は「当初存在しないと考えていたが、その後にLINEデータの存在を認識した」という趣旨の釈明をした。警視庁で証拠を精査したところ、データが見つかったという。
証拠開示されたLINE履歴から、同僚らが同庁の事情聴取の内容を報告し合っていたことが判明。東京地裁立川支部は今年4月の判決で「『園児を落ち着かせるために抱きかかえた』とする吉冨さんの説明に不自然な点はない」とし、「同僚の話は情報交換後に内容が変遷しており、信用できない」と指摘。ほかに犯行を示す証拠もないとして無罪とし、確定した。
吉冨さんの弁護人は「証拠の存否を十分確認せず、漫然と『不存在』と回答した捜査機関の対応は問題だ」と指摘。国と都に国家賠償を求める訴訟を近く東京地裁に起こすとしている。
取材に対し、東京地検は「データの存在を認識しながら『不存在』と回答したことはない」とし、警視庁は「証拠を隠そうという意図は全くなかった」とコメントした。