[視点 参院選2025]経済対策<1>賃金と物価 好循環促せ…慶大教授 土居丈朗氏
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7月3日に公示される参院選の主な論点について、識者の考えを聞いた。
政府は岸田内閣の頃から「デフレ完全脱却」と言い続けており、石破内閣もこれを踏襲している。当然、物価が上がることを政府として許容しているわけだが、日本経済があまりにも物価上昇に不慣れなため、国民に理解が浸透していない。与野党は目先の物価高対策だけでなく、賃金上昇と物価上昇の好循環をどう作るか、政策面の議論をしてほしい。
すでに大企業だけでなく中小企業も賃上げは避けられないところに来ている。そのためには商品の値段を上げる、つまり価格転嫁が必要。だが経営者にはデフレ時代の恐怖心が残っており、売り上げ減につながりかねないと価格転嫁に及び腰だ。これが賃上げを妨げている最大の要因だとみている。
一方、働き手の側も自社の賃金が上がらなければ、転職してより高い給料を目指し、自ら賃上げ効果を享受する選択肢もある。政府には、こうした価格転嫁や転職促進を活発化していくための政策や制度改革が求められる。
もちろん、足元で物価上昇に賃金上昇が追いついていない点は課題だ。本当に支援が必要な低所得者らへの臨時的なフォローも必要だろう。それでも一律に給付金の形でバラマキを行うのではなく、本当に困っている人にきちんと集中して支援するべきだ。
今回、野党で時限的な消費税減税の主張が目立つ。ただ、減税をやめるときには再び物価が上がることになる。それを許容することとセットなのだろうか。やや短期的な視野の政策だと言わざるを得ない。
コメの価格高騰を巡っては小泉農相の下、スピーディーに安価な備蓄米を供給することに成功したといえる。一方で中長期的にはコメの増産を含めた農業改革が不可欠だ。
過去数十年にわたってコメの需要は継続的に減り続けてきたため、「作っても売れないだろう」という農家の発想を転換することは難しかった。高値で買ってもらえるなら生産量を増やしてもいい、と考える農家が増えるのは自然だ。日本の稲作は潜在力がある。輸出で稼ぐのも一つの活路だろう。
担い手の高齢化が進む中、世代交代と大規模化による生産コストの削減をどう進めるかが課題となる。一連のコメ騒動では消費者と生産者の意識の違いが顕在化したが、農業全体の改革は消費者の後押しがあって初めて貫徹できる。今は改革を進めるいいチャンスだ。(聞き手・経済部次長 武田泰介)