インサイダー疑惑のIRJ、社員が数年にわたり顧客企業の「重要事実」漏えいか…知人の不正取引は億単位の可能性

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 社員がインサイダー取引に関与したとしてコンサルティング会社「アイ・アールジャパン」(IRJ)が証券取引等監視委員会の強制調査を受けた問題で、社員が数年間にわたって知人に顧客企業情報を漏えいしていた疑いがあることがわかった。知人は情報を基に億単位の不正取引を行っていたとみられる。過去にもインサイダー事件などの不祥事が起きている同社は、新たな疑惑による調査に「誠に遺憾で、厳粛に受け止める」としている。(岸田藍)

内部情報の「宝庫」

インサイダー取引疑惑の構図
インサイダー取引疑惑の構図

 「経営計画のドラフト(草案)や株式公開買い付け(TOB)の情報などが集まる。内部情報の『宝庫』だ」。IRJの関係者は同社の業務についてこう語った。

 同社は、1984年に創業した日本初の投資家向け広報(IR)の専門会社が前身で、数百社に上る上場企業を顧客に持つ。株主名簿に記載されていない「実質株主」の調査やIR支援などを手がけている。

 関係者によると、今回、問題になっている社員は約10年前に入社した課長級で、多くの顧客企業に関する業務に従事していたという。顧客から株価に影響を与えるような内部情報を聞き、それを基に助言をするため、社員は日常的に未公表の「重要事実」を得られる立場にあった。

 監視委は今年5月、社員の関係先として金融商品取引法違反容疑でIRJ本社などに強制調査に入った。社員が業務の中で把握した重要事実を知人に繰り返し伝え、知人は公表前に複数銘柄の株取引をしていたとみている。情報の漏えいは遅くとも2022年以降、数年間にわたって行われていたとされる。

 知人は社員の大学時代の友人だったといい、監視委は、社員が顧客情報を提供した見返りに金品を得ていた疑いもあるとみて調査を進めている。

過去にも不祥事

アイ・アールジャパンを巡る経緯
アイ・アールジャパンを巡る経緯

 内部情報の取り扱いに関するIRJの不祥事は過去にもあった。

 22年6月には、当時の副社長(59)が同法違反容疑で監視委の強制調査を受けた。副社長は親会社で東証プライム上場の「アイ・アールジャパンホールディングス」(IRJHD)でも副社長を務めていたが、調査直後に辞任。IRJHDの重要事実が公表される前に、損失回避の目的で交際相手2人に同社株の売却を勧めた疑いが持たれ、23年5月、東京地検特捜部による逮捕に至り、その後、有罪が確定した。

 また、新聞輪転機メーカーとの間で結んだ敵対的買収の防衛策などに関する助言契約を巡っては、元副社長が在任中、契約締結の数か月前に敵対的買収を仕掛けてきた投資会社に買収手法を提案していた疑いが浮上。外部の弁護士でつくるIRJHDの第三者委員会が23年3月、元副社長が業務として提案を行った可能性が高いと認定し、「顧客の利益・信頼を不当に害した不適切行為だ」と指摘した。

「歯止め」ならず

 元副社長による一連の問題を踏まえ、IRJHDは23年6月、グループ内の従業員に個別銘柄の株取引の禁止を徹底し、インサイダー取引の研修を行う再発防止策を発表。コンプライアンス室も新設した。

 しかし、新たな疑惑が浮上している社員にはこうした対応が「歯止め」にはならず、会社が不正対策を進める裏でインサイダー取引に関わり続けていた可能性が高いとみられている。

 IRJHDは今月5日、「インサイダー取引の未然防止に取り組み、信頼回復に努めていた中、子会社の社員が調査の対象となったことは、それ自体誠に遺憾」とするコメントを公表。取材に対しても担当者は「再発防止策の実効性を高める手法についても、今後、社内で議論して実施していく」としている。

社外関係者の「悪用リスク」高まる

 インサイダー取引の中でも近年は顧客から得た情報を悪用するケースが目立つ。

 三井住友信託銀行の元部長(公判中)によるインサイダー取引事件では、顧客の株主総会を支援する業務を統括する立場の元部長が、回覧されるTOB情報を基に繰り返し不正に及んだとされる。東京証券取引所元社員(有罪確定)の情報伝達事件でも、上場企業の適時開示を扱う部署にいた元社員がTOB情報を父親に提供していた。

 黒沼悦郎・早稲田大教授(金商法)は、合併・買収(M&A)やTOB、IRが増え、これらを支援する業態も広がる中、未公表情報を知る社外関係者が多くなり、悪用のリスクも高まっていると分析。「当局による積極的な摘発・監視が求められる」とした上で、「社員教育の徹底が何より重要だが、情報共有を最小限にとどめたり、TOBの対象社名を暗号化したりする工夫も必要だ」と話す。

 政府も対応を強化する方針だ。金融庁は25日、TOB情報を悪用した不正への課徴金増額などを盛り込んだ新しい規制案を金融審議会に諮問。来年の通常国会への関連法の改正案提出を目指している。

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