財政危機のNHK、それでも“チーム”になれない執行部に経営委員長がいらだち「戦後作った法律を墨守」
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NHKの業務執行を監督する経営委員会の古賀信行委員長が、会長以下執行部のあり方について、異例の問題提起を続けている。公共放送の存立基盤である放送法についても疑問を呈している。受信契約数の減少などかつてない経営難が続く中、稲葉延雄会長の任期満了を来年1月に控え、夏以降、会長人事も動き出す。最高意思決定機関である経営委の動きが注目される。(文化部 辻本芳孝)
理事再任案を保留、異例の指摘
「放送法上、会長は権限が強いと言われるけど、いくら強くても1人で全部はできない。経営はチームで臨むべきだ」。5月下旬の経営委員会後、古賀氏が記者会見で明かした。「今のままでは、誰が会長になってもできない」
野村ホールディングス取締役会長などを務めてきた古賀氏は、昨年3月から委員となり、委員長に互選された。経営委員は、財界や学識経験者の中から、国会の同意を得て内閣総理大臣が任命。12人の委員で構成する経営委員会は、会長を任命するほか、執行部を監督するNHKの最高意思決定機関だ。
しかし常勤委員は1人だけで、委員長も含め非常勤ばかり。会合は原則月2回のみだ。果たして執行部の監督が十分にできるか、ガバナンス(組織統治)能力が長らく疑問視されてきた。それだけに古賀委員長の指摘は異例で、公共放送改革にいよいよ乗り出したのかとも受け止められる。
きっかけは今年4月、経営委が行った執行部体制に関する議論だ。古賀氏によると、稲葉会長による理事(役員)の再任案を保留にし、「役員のあり方について、そもそもの議論を行った」という。役員は従来、報道、技術など出身部局に応じて職員から選出されてきたが、古賀氏は「財務分析能力や法的な考え方など、それぞれの人物の特性を見極めるべきだ」と訴えた。
会長交代しても居残る理事
放送法では、会長が「業務を総理」し、副会長や理事といった役員は、会長を「補佐」すると定められている。何事も会長の決定権が強く、執行部は、株式会社の取締役会のような合議体としては位置付けにくい。このため、会長以下の役員を一つのまとまった組織として捉える考え方は、NHKではこれまで聞かれなかった。
これに対し古賀氏は、現代の企業経営では、役員はトップの下でチームとして動かなければ適切な執行がしづらいとし、役員人事もチーム作りの第一歩と位置付けている。
また、古賀氏は役員の任期について、放送法の解釈への疑義を示した。同法では、会長の任期は3年に対し、理事の任期は2年と異なる。さらに理事の就任時期がまちまちなため、会長交代時も自身の任期満了までとどまるのが通例だ。この点、古賀氏は任期は“最大限2年”との認識から「会長が代わった時は体制も組み替えないといけないのではないか」と指摘する。
古賀氏の放送法の運用への違和感はこれだけにとどまらない。例えば、受信契約のルールは「放送受信規約」に基づくが、規約変更には、国民からの意見募集が必要と放送法は定めている。これを受け経営委は、10月からテレビを持たずにインターネットだけで番組を見る視聴者にも受信契約義務を課すため、意見募集を4~5月に行った。
ところが解約方法など具体的なサービスの詳細が示されていなかったため、「内容がわかりにくい」との声が上がった。古賀氏は「わかりにくい条文を見せて意見を求めるのでなく、それよりもっと形になったものを示して意見を言ってくれというのが今日的だ」と批判した。
第三者委員会でガバナンスのあり方議論も
放送法は、1950年に施行され、NHK役員のあり方などについては基本的に変わっていない。古賀氏は法改正の難しさに触れつつ、「戦後作った法律を墨守しているような感じがしてならない」といらだちをにじませる。「法律を作る人(国会議員)がおかしいと思わなければ変わらない」と、旧態依然とした放送法の改正に向けた国民的議論も期待している。
立教大学の砂川浩慶教授(メディア論)は「自分が委員長に就任して初めて様々な矛盾を感じ、会長選びが始まる前の時期を狙って放送法全般の議論が広がることを期待した発言ではないか」とみる。「NHKでは20年近く、政権の意向を受けながら経営委が外部企業などから会長を選出してきたが、そもそも公共放送として経営委や執行部はどうあるべきか、客観的に議論する場がなかった。例えば、第三者委員会のような形でNHKのガバナンスのあり方について議論しても良いのではないか」と指摘している。
1000億円削減、契約者145万件減
古賀氏が従来の会長中心主義を改めて一般企業に近い経営体制を模索する背景には、NHKの財政がこれまでになく厳しいという情勢がある。2023年10月の受信料値下げの影響で、24~26年度は赤字予算を組み、不足分を積立金で
テレビ所有者に課している受信契約数の減少への対応も不可避だ。19年度末には4212万件あったがコロナ禍などで減少に転じ、昨年度末は4067万件。5年で145万件減った。自宅訪問によらない営業手法に移行したのが大きな原因だが、契約義務の前提となるテレビを持たない人も増えている。
また、10月からネットだけの番組視聴者に受信契約義務が課されるとしても、利用者がどれだけいるか未知数だ。
「誰が会長になっても大変」
経営委は7月に次期会長を選考する会長指名部会を設置。稲葉会長の業績などを評価した上で、続投させるか、新たな会長を選任するか議論を始める。
08年に20年ぶりの外部会長として就任した福地茂雄氏以降、NHKでは6代続いて外部会長が続いている。経営効率化や不祥事撲滅のためには、外部の企業経営者らの目線が不可欠と判断されたからだ。しかし、山積する難題に加え、会長は兼業が禁じられ、国会対応もしなければならない。「報酬(25年度で年3092万円)に比べて激務」との声もあり、何人もの財界人が経営委からの打診を断ってきた。
他方、「業務に長年通じてきた職員に任せた方がいい」と内部昇格を望む声も根強い。とはいえ、職員の間からは「27年度の収支均衡も容易でなく、受信料収入も下げ止まっていない。誰が次期会長になっても大変だ」との声が上がっている。