大手小町
30代の挑戦

人力車夫・大利弥里が「おもてなし」の心を載せて浅草を走り続けるわけ

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人力車に外国人観光客らを乗せ、東京・浅草の街を駆け巡る大利弥里さん(31)。車夫として活躍するにとどまらず、動画やSNSを通して人力車の魅力を世界に発信中だ。タレント、保育士など様々な経験を重ねた激動の20代を経て、「おもてなし」の最前線を走り続けている。

車体だけで90キロもの重さ

「人力車はお客さまとの距離が近くて、私の熱量を伝えられる気がします」=吉川綾美撮影
「人力車はお客さまとの距離が近くて、私の熱量を伝えられる気がします」=吉川綾美撮影

人力車は車体だけで90キロの重さがあり、そこにお客さまが乗るのですが、てこの原理を利用して最大250キロまで対応できます。女性の車夫の場合、男性より力がない分、持ち手をつかむ位置や体の傾け方などでテクニックが必要です。

研修を経て車夫としてデビュー後に再度、研修に戻ったことがありました。お客さま2人を乗せて走っていたら、先輩から「走行に不安がある」と指摘されて。車が重く感じられて、余裕がなくなっていたのです。2度目の研修中に、先輩から「車夫をやめるかやめないか、選んで」と迫られ「やめません」と即答しました。悔しくて、先輩2人を乗せてひたすら走行練習を繰り返しましたね。

今は、台東区の浅草を始め、スカイツリーのある墨田区、往復2時間コースで荒川区の神社までご案内することもあります。

思い立ったらすぐ行動

20代はいろいろな経験をしました。タレントとしてテレビに出たり、保育士として働いたり。ワーキングホリデーでオーストラリアにいた時にコロナ禍が始まって帰国したのですが、車夫をしている人と知り合って「人力車って面白いよ」と言われ、2日後には車夫の面接に行きました。思い立ったらすぐ行動というか、いてもたってもいられなくなるんです。

観光情報は研修で頭にたたき込みました。でも実際にどんなふうにご案内するかは、お客さまに合わせて変えています。歴史に興味がない人が歴史の話をされても楽しめないじゃないですか。話をしたいという人もいますから、その場合、私は聞き役に徹します。

フランスやアメリカ、ドイツなど海外からのお客さまも多く、お寺や神社では一緒にお参りして参拝のやり方をやってみせたり、専属カメラマンのように写真を撮ってあげたりすることも。私が発信した動画を目にして「人力車に乗るためだけに来日した」というお客さまもいました。

大好きな浅草支えたい

車夫の仲間たちとSNSのチームを作って、人力車の魅力を伝えています。女性車夫だけのインスタグラムもありますし、私は個人でもインスタグラムやユーチューブをやっているので「人力車インフルエンサー」なんて言われることも。

人力車の魅力発信にとどまらず、旅館やホテル、レストランやカフェなどもいっぱい発信していきたいです。自分でも浅草のいろんなお店に食べにいきます。お店を守るおかみさんたちの姿を見ると、私もおかみさんたちのように大好きな浅草を支える一員になれたらと思いますね。

目の前のお客さまにとって、人力車に乗るのは人生でこれが最初で最後になるかもしれない。そんな思いで、おもてなしを大事にしています。お客さまの貴重な思い出の一ページになれることがやりがいです。

【取材後記】

目の前のことに打ち込みたい

記者は人力車に乗ったことがない。少し体験乗車させてもらった。

身長1メートル60と決して大柄ではない大利さんは、スリムな体を前方にぐっと倒して人力車を引く。一度挫折を経験したと語ってくれたが、その走りは滑らかだ。笑顔で浅草の街の魅力を語りつつ、常に周りを見回して安全を確かめていた。

車夫を始め様々な挑戦をしてきた大利さん。フットワークの軽さが印象的だ。どんなことにも全力を傾けることが伝わってきた。

自分を顧みると、ここ数年、仕事や育児に追われ、何か大きいことに「挑戦」した記憶がないし、しばらくはその意欲も湧いてきそうにない。だが、それでもいいと思っている。大利さんのように目の前のことに心を込めて打ち込めば、いつか違った景色が見えてくるような気がする。(読売新聞英字新聞部 南智佳子)

*この記事の英語版は The Japan News で!

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちに、キャリアの転機とどう向き合ったかを読売新聞の同世代の女性記者がインタビューする企画です。

プロフィル
大利 弥里( おおとし・みさと
1993年生まれ、埼玉県出身。短大卒業後、タレントや保育士、海外生活などを経て、2020年に人力車サービスを提供する会社「ライズアップ(東京力車)」で車夫デビューした。現在は予約客のみ受け付けている。女性車夫のインスタグラム「東京力車女子部」はフォロワー約9万人。

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