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大阪発祥・エスカレーターの「片側空け」が万博で「2列並び」に改善された理由

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エスカレーターに乗る際は、ステップの上に立ち止まり、混雑時には2列に並ぶのが、正しい乗り方とされています。しかし、駅や百貨店などでは、ステップの片側だけに人が立ち止まり、その横を人が歩いていく姿が一向になくなりません。ポスターやアナウンスなどで「歩かないで」と注意を呼びかけても、一度定着した慣行はなかなか改まらないようです。ところが、大阪・関西万博の会場では、エスカレーターを歩行する人は見当たらないそう。くしくも、1900年のパリ万博をきっかけに世に広まったとされるエスカレーター。大阪・関西万博は、正しい乗り方が広まるきっかけになるのでしょうか。

「非日常」のエスカレーターでは2列並び

万博会場内のエスカレーターに2列で乗る来場者(4月13日、近藤誠撮影)
万博会場内のエスカレーターに2列で乗る来場者(4月13日、近藤誠撮影)

エスカレーターに関する文化研究で知られる江戸川大学名誉教授の斗鬼正一さんは4月下旬、大阪・関西万博の会場を訪れました。会場には、高さ最大約20メートルの大屋根リングへ上るためのエスカレーターが9台設置されています。斗鬼さんが見たところ、エスカレーター上を歩く人は見当たらず、混雑時には2列に並んで乗ることが定着していたといいます。

その理由について、斗鬼さんは「ラッシュ時の駅のエスカレーターのような殺気立った雰囲気とは違い、万博はのんびりとした非日常的な場所だからです。昔、デパートへ行った時のように、エスカレーターに乗ること自体を楽しんでいる様子でした」と話します。もっとも、万博には国内外から大勢の人が来場し、来場者たちから様々な情報が拡散されることが期待されるだけに、「これがエスカレーターの正しい乗り方だと世に示し、安全安心の社会を世界へ発信する機会になればいい」とも。

夢洲駅に配置された、新機能を搭載したエスカレーター(写真提供・斗鬼正一さん)
夢洲駅に配置された、新機能を搭載したエスカレーター(写真提供・斗鬼正一さん)

一方、万博会場の最寄り駅となる大阪メトロ中央線・ 夢洲(ゆめしま) 駅には、日立ビルシステム(東京)が開発した、片側空けを抑止する新機能を搭載したエスカレーターが3台配置されました。利用者の立ち位置にLED(発光ダイオード)を照射し、2列になって乗るよう誘導します。

しかし、斗鬼さんは、そのエスカレーターでは歩行する人を目にしたそうです。「上る時にはLEDの光が確認できますが、下る時は光が視野に入らないので意味がない。光が何を示しているのか説明する掲示もなく、係員に聞いても理解していない状況でした。もっとPRを強化し、対策の内容を広く認知させる必要があると感じました」

「見守り君」歩行・走行防止に効果

斗鬼さんによると、エスカレーターの「片側空け」は、高度経済成長期の1967年頃、大阪の阪急梅田駅で、片側を空けるようアナウンスされたことをきっかけに、「急いでいる人に配慮する良いマナー」だと認識されるようになったといいます。その後、片側空けの慣行は全国に広まっていきました。

近年では、片側空けをなくそうと、対策を講じる地方自治体や企業が増えており、一定の効果を上げている地域もあります。

2023年10月、エスカレーターには立ち止まって乗ることを義務づける条例を施行した名古屋市は、AIを搭載した監視システム「エスカレーター見守り君」を、市営地下鉄・伏見駅に設置しました。駅構内のエスカレーターの上を利用者が歩いたり走ったりすると、警告音とともに「エスカレーターは立ち止まってご利用ください」などの音声が流れる仕組みです。

斗鬼さんが昨年、同駅で調査したところ、「見守り君」の設置によって、歩く人や走る人は以前に比べて約9割減少していました。斗鬼さんは、この対策には効果があったと結論付けましたが、効果の理由については、「周りの目を気にする人が多いから」と説明します。しかし、とにかく急ぎたいという人は、警告音や注意アナウンスが流れても、聞く耳を持たないかもしれません。

「『歩きたい』という人には、20世紀の日本社会の『はやいことは良いことだ』という価値観が刷り込まれているのでしょう。急いでいるのではなく、社会に急がされていたのだと認識し、心にゆとりを持ってほしい。エスカレーターに2列で乗ることは、社会を変えるための大事なステップだと考えています」

「安全のために改善」の意識を

先ごろ、日立ビルシステムの研究所を見学した斗鬼さん。エスカレーターの片側空けの防止策を熱心に研究している様子がうかがえたと振り返ります。「もっと物理的に改善できるような革新的なエスカレーターの誕生を期待しています。例えば、ベンチに座って乗るようなエスカレーターがあってもいいと思うのです」

しかし、ハードウェアに頼り過ぎるのは良くないと、斗鬼さんは強調します。「例えば、『見守り君』のようなものが増えてしまえば、日本は監視社会になってしまいます。そうならないために、ボランティアの人たちが呼び掛けを行うなど、一人一人が『私たちの安全のために改善していく』という意識を持つことが大切です」

(読売新聞メディア局 長縄由実)

プロフィル
斗鬼正一(とき・まさかず)
1950年、神奈川県鎌倉市生まれ。明治大学大学院修了。江戸川大学名誉教授、元明治大学大学院・文学部兼任講師。専門は文化人類学、異文化コミュニケーション、文化史。研究者として、安全利用を目指す新たなエスカレーター文化をメディアで提唱している。

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6667387 0 大手小町 2025/05/22 15:00:00 2025/05/22 15:00:00 /media/2025/05/20250521-OYT8I50021-T.jpg?type=thumbnail

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