「民泊経営」中国人の移住のツールに…SNSに飛び交う「簡単」なノウハウ、日本語も不要
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「日本で暮らすため、民泊を始めたんです」
大阪市西成区の木造住宅が並ぶ天下茶屋地区。中国四川省出身の張華さん(32)(女性、仮名)は昨年2月、リフォーム済みの築50年超の木造2階建てを約3000万円で購入し、民泊経営者として「経営・管理」の在留資格で滞在している。
中国では日本料理店を経営していた。出張で日本を何度か訪れるうち、生活環境に魅力を感じたという。
移住の方法は「中国版インスタグラム」と呼ばれるSNS「小紅書(RED)」で調べた。飲食店を開きたかったが、「民泊が簡単」と書かれており、実際にSNSで探した中国人行政書士に頼むと、約3か月で在留許可が下り、長男(6)と2人で移住した。
大阪を選んだのは、中国から近く、東京より住宅が安かったことなどが理由だ。日本語は話せず、民泊用の住宅や自宅の購入は中国人の不動産業者に頼んだ。中国や台湾、欧米から観光客が訪れ、経営も軌道に乗り始めている。張さんは「日本の暮らしに満足している。いつか飲食店を開き、中国に残っている夫を呼びたい」と話した。
大阪で今、「中国系民泊」が急増している。
阪南大の松村嘉久教授(観光地理学)の調査では、国家戦略特区制度に基づく「特区民泊」5587件(昨年末時点)の4割超が、営業者または営業法人の代表者の名前が中国系だった。
特に増えているのが西成区だ。特区民泊の施設数は市内24区で最多の1417件。このうち中国系は807件と約6割を占めている。
同区の天下茶屋地区には、長屋住宅の間に、新築されたり、リフォームされたりした民泊が散在している。地区に40年近く住む女性(68)の自宅には昨年以降、不動産会社から自宅の売却を勧めるチラシが相次いで入っている。「コロナ禍後、このあたりは中国人の民泊だらけ」と話す。地元で不動産業を営む男性も「中国人が物件を買いあさり、ミニバブルだ」と明かす。
西成区は、南海電鉄で関西空港に直結し、大阪・ミナミも近い。大阪・関西万博の開幕を控え、ビジネス目的で民泊を営む中国人もいるとみられるが、松村教授はこう考えている。
「民泊が移住の手段になっているのではないか」
西成区と隣接する浪速区内に、41室中40室が特区民泊の認定を受けた14階建てビルがある。2022年に新築され、外見は普通のワンルームマンションだ。
読売新聞が不動産登記簿を確認したところ、40室のうち22年5月に特区民泊の認定を受けた1室は、所有者が法人で、認定3か月前に設立されていた。当初は日本人とみられる人物と中国在住の中国人とみられる人物が代表取締役となっていたが、認定後、日本人が退任し、中国人の住所が日本に変更されていた。
40室全ての登記簿を確認すると、所有者か所有法人の代表者は中国人とみられる名前だった。法人が所有する26室のうち18室は、特区民泊の認定前後に、代表者の中国人の住所が日本に移っていた。
松村教授によると、このビル以外の特区民泊でも、認定前後に運営法人の代表を務める中国人が日本に移り住んだとみられるケースは多数確認されたという。
法人の資本金は、多くが経営・管理ビザの取得要件と同じ500万円だった。
ビザを取得するために民泊の運営法人を設立し、移住する――。松村教授は「こうした方法が中国人の間で広まり、国内にも支援する業者がいるのだろう」と推測する。
在留外国人統計によると、経営・管理ビザで滞在する中国人は急増し、24年6月末時点で2万551人で、同ビザが設けられた15年から2・8倍に増えている。人口あたりの人数は、市区町村別で大阪市中央区が全国1位。次いで浪速区、西成区で、大阪の区が上位10のうち七つを占めた。
生野区で民泊を営む王偉さん(33)(男性、仮名)も23年12月に経営・管理ビザで家族とともに移住した。「お金があれば、ビザを取れる。日本語を話せなくても民泊なら大丈夫」と話す。
中国のSNSでは今、こうした移住のノウハウが飛び交っている。
日本で暮らす外国人が人口の1割を占める「外国人1割時代」が国の予測を上回るペースで迫っている。中国人は国籍別で最多の約84万人で、10年間で約20万人増えた。今回の連載では、日本で広がる中国人社会の実態と背景を追う。
◆ 経営・管理= 経営者や管理職向けの在留資格。「500万円以上の資本金」もしくは「2人以上の常勤職員」を用意し、日本国内に事務所を確保するなどの要件を満たせば取得できる。在留期間は最長5年。何度でも更新できる。2015年4月の改正入管難民法施行で、以前の「投資・経営」から名称が変わり、事業の準備期間として4か月の在留期間が設けられた。
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