原田宗典さん 『おきざりにした悲しみは』刊行 吉田拓郎の曲から着想
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作家の原田宗典さん(65)=写真=が書き下ろしの長編小説『おきざりにした悲しみは』(岩波書店)を刊行した。吉田拓郎さんの同じタイトルの曲から着想を得た物語は、様々な人生の曲折を味わった人の優しさに満ちている。
奇妙な疑似家族と小さな奇跡…これを書けたのは大人になったのかな ちょっと遅いけど
小説の題材は「自分の中からというより、たいてい、向こうから来る」という。今作は6年ぶりの小説だ。昨年、友人とカラオケに行ったときにこの曲を聴き、「いい歌だなと思いながら、この話が浮かんだ」。
物流倉庫で働く65歳の長坂誠は、同じアパートに住む、母親が帰らずに困っていた姉弟と知り合う。2人との奇妙な同居生活とともに、長坂の半生がつづられていく。「昭和であれば困っている2人の面倒を見ると思う。今の時代でも、手を差し伸べてほしいという願いはありました。長坂はすごく散らかった人生を送っていく中で、こういう優しさを手に入れた」。擬似家族のような不思議な関係性の中で、小さな奇跡が3人に起きる。「最初から決めていたわけではないですが、物語が救いのある方へ、ある方へと来ました」
多忙、病、書けない苦しみ
1984年にすばる文学賞佳作となり、脱力系のエッセーで売れっ子に。「数えたら、月に43本締め切りがあった」というほど書き続け、30代は「小説は思いついても、なかなか書けなかった」。ただ、その後は忙しさの反動でうつ病を患うなど、書けない苦しみも味わった。
近年は目の調子が悪く、体調のいい午前中を執筆時間にあてている。「毎日3、4時間、進んでも(原稿用紙で)5枚かな。祈るようにして書いている」と静かに語った。
本作が書けたのは、「大人になったのかな」とつぶやくように言った。「ずいぶん長い間、子供でした。65にしてね。ちょっと遅いよな、遅すぎるけど」(川村律文)