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心配や課題 家裁で探る
法改正に伴い、親子交流を求める調停や審判の申し立てを受けた家庭裁判所が、父母に親子交流の試行を促すことができる仕組みが2026年5月までに制度化される。交流の可否や方法を判断する調査の一環で、既に各地の家裁でも取り組まれている。年間600~700件の申し立てがある大阪家裁を訪ね、どんな内容なのかを取材した。
「ここで交流していただいています」。案内された「家族面接室」にはカーペットが敷かれ、おもちゃやぬいぐるみが並ぶ。
取材に応じた家裁調査官によると、親子交流を求める申し立てのうち、試行を促す対象としているのは主に、別居の親と長期間会えていないなどの理由で、子どもや同居の親が交流に不安や心配を抱いているケースだ。試行は強制ではなく、家裁の提案に父母が同意すれば行われる。基本は1回で、平日の日中に家裁調査官が立ち会い、長くても1時間程度という。
試行の内容を示す一例として、父親が小学生の姉・弟との交流を求めて調停を申し立てたケースを紹介してくれた。「子どもが嫌がっている」と反対する母親に家裁は試行を提案し、母親が了承した。
家族面接室で弟はうれしそうに父親とボードゲームで遊ぶ一方、姉は持ち込んだ雑誌を傍らで開き、しばらく父親と目を合わそうとしなかった。父親が会話の輪に何度も誘ううち、次第に姉も口を開くようになり、3人に笑顔が浮かんだ。最後に父子でハイタッチをして交流を終えた。
同居の親は、別居の親の同意があれば交流の様子を別室から見ることができる。母親は「娘は会いたい気持ちがあったのに、私に気を使っていたんですね」と漏らし、後日の調停の場で親子交流に同意する考えを示したという。
■安全安心が最重要
試行を通じて「親子が抱いている不安や、解決すべき課題が浮かび上がる」と調査官は話す。別のケースでは、父親が保育園児のきょうだいとの長時間の交流にこだわっていたが、試行してみて父親は自分一人では幼い2人に目が届きづらく、危ないことに気づき、まずは短時間の交流で母親と折り合うことができたという。
実施する際は「どのケースも子どもの安全安心を最重要に考えている」と強調する。子どもの思いを確認するため、試行の前に手紙や家庭訪問を通じて、父母とどう過ごしてきたかや今後どうしたいかなどを尋ねる場合もあるという。年齢や性別、きょうだいの有無などを考慮し、声のトーンやしぐさでも推測。幼い場合は一緒に遊びながら尋ねるなど工夫する。直接会うことへの不安が強い場合は別居の親の手紙を示す方法や、ビデオ通話を提案することもある。
また、商業施設など裁判所以外の場所で土日に行う場合もある。親権争いなどで関わる弁護士らに試行に付き添ってもらい、後から家裁調査官が結果を聴き取るなど「ケース・バイ・ケースで対応している」という。
■子どもの利益守る
大阪家裁では、親子交流の申し立てを通じて関わる父母に対し、子どもの心情への配慮を呼びかけ、親としてのあるべき対応を伝える機会を設けている。
調査官は「子どもが安全安心な環境で自信を持って生きる権利を守るため、試行は今後も活用されるのではないか。それが『子どもの利益』を守ることにもなる」と語った。
(第3部おわり。久場俊子、生田ちひろが担当しました)
家裁調査官 法律のほか、心理学や教育学、社会福祉学などの知識を持つ専門職員。少年事件や離婚調停など家事事件の調査を担う。親や子と面談して意思や生活状況を把握するなど原因や背景を探り、当事者に最良と思われる解決策を裁判官に報告する。
暴力・虐待ある場合は考慮
今後施行される改正家事事件手続法などは、暴力や虐待などがある場合を考慮し、「子の心身の状態に照らして相当でないと認める事情」があれば親子交流の試行を促せない仕組みにしている。また、親が試行の提案に応じないケースでは、家裁が理由の説明を求めることができ、その後の調停や審判の判断に生かされる。
子のため頑張れる
親子交流の試行を経験した近畿地方の50代男性
ある家庭裁判所で試行した時、2歳の子どもは僕の顔を覚えておらず大泣きし、申し訳ない気持ちになった。
その後、家裁の判断に基づき、月1回、会えるようになった。会う度に成長が実感でき、小学生になると「お父さん」と呼んでくれた。子どものためにも明日からまた頑張ろうと思える。
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