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スタッフ付き添い/アプリで調整
家族連れでにぎわう週末の香川県内の児童館。リュックを背負った男児は、柱の陰にいた父親(43)を見つけると笑顔で駆け寄った。高く抱き上げた父親は、会うたびに重くなる息子に「また大きくなった」と成長を実感した。再会を喜ぶと、さっそく遊び始めた。
2年前に家庭裁判所の調停で離婚が成立。母親が親権者となり、父親と月1回の親子交流が決まったが、父母だけで行うのは難しいため、NPO法人「面会交流支援センター香川」(高松市)に連絡の調整や付き添いを依頼した。約2時間の父子の交流にスタッフが毎回同行し、少し離れたところから見守っている。
父親は別居した当初、男児に会えず「気が狂いそうだった」というが、今は「何日後には会える」と思えることが心の支えになっているという。
「母親にしかできない話もあれば、父親にしか話せないこともあると思う。『うちはパパがいないから』と息子を悩ませないようにしたい」
■サポートに地域差
「親子交流(面会交流)支援団体」は、子どもが別居の親と会う際にスタッフが付き添ったり、待ち合わせ場所に子どもを連れて行ったりして、安全な交流をサポートする民間の第三者機関だ。家裁の元調査官や調停委員、弁護士、保育士らが運営するなど様々で、法務省のホームページには現在、31都道府県の67団体が掲載されている。
その一つ、一般社団法人「びじっと・離婚と子ども問題支援センター」(横浜市)が昨年、利用者に実施した調査では106人が回答。「相手が利用者ルールを守るか」との懸念は支援利用前の63・2%から利用後は19・8%へ、「安心して交流できるか」との懸念は44・3%から11・3%に下がり、支援団体の関わりで双方の親の不信感や不安感が大きく低減していた。
一方、こうした支援団体の利用は有料で、1回の付き添いで1万~3万円程度かかることが多く、費用の高さがハードルになっている。
東京都文京区や千葉県船橋市などが利用料の一部を補助するほか、大阪府や北九州市などは交流支援事業として各団体に委託している。ただ、公的なサポートは全国一律ではなく、都市部と地方では団体の数が偏在している。
支援団体の立ち上げをサポートする一般社団法人「面会交流支援全国協会」の事務局長で、広島大准教授(家族法)の高田恭子さんは「毎年多くの子どもが親の離婚を経験する中、親子交流のサポートは子どもへの重要な社会的支援であり、地域差があるべきではない。ただ多くの団体は手弁当の運営で、父母の利用料負担を軽減するためにも公的な援助の充実が必要だ」と強調する。
■連絡先知られずに
離婚した相手とやりとりする負担感をIT(情報技術)で和らげる動きもある。
横浜市のソフトウェア開発会社「GUGEN Software」が2022年に開発したアプリ「ラエル」は、互いの連絡先を知らせずに交流の日時や場所を決められる。
基本機能は無料で、「よろしくお願いします」など約150の定型文で事務的にやりとりができるほか、子どもの写真の共有や、養育費の振込日を知らせるリマインダー機能もある。有料プランだと緊急メッセージなどが送れる。
社長の境領太さん(40)が、ひとり親から離婚相手と連絡を取る難しさを聞いたのが開発のきっかけ。登録者は約8000人で「目指すのは親の離婚後も子どもが笑顔で両親と交流できる社会」と話す。
6歳の娘を育てる西日本在住の30代女性は元夫に対し、ラエルの利用を親子交流の条件にした。「離婚後も夜中に感情的な長文のメッセージが届いたこともあり、やりとりするのがストレスだった」
日程を調整後、娘は元夫と初めてビデオ通話アプリで交流。緊張して5分ほどしか話せなかったが、今では互いに似顔絵を描き、見せ合うなどして遊ぶ。友達に「パパいるの?」と聞かれて、答えに困ることもなくなったという。
元夫の言動に傷ついた過去は消えず、女性の心情は複雑だ。それでも「親の都合で離婚し、娘を巻き込んでしまった。だから娘が望むなら、親子交流は続けていこうと思う」と話している。
親は親、子は子
中学生の頃に父母が離婚した関東の50代女性
一緒に暮らす母から「戦友」と言われると誇らしく感じていた。その一方で、父と時々会っていたことに母は良い顔をせず、ずっと罪悪感を抱いていた。
大人になるにつれ、母の言葉をだんだん重く感じるようになり、「なんで私と一緒に憎んでくれないの」と言われた時は母に負の感情がわいた。自分の気持ちを押しつけないことが、結局は親自身のためにもなるのではないか。