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「子どもの権利」もっと浸透を
親の離婚を経験した人は、養育費にどんな思いを抱いているのだろう。
■お金の心配つらく
小学5年の時に両親が離婚した東京都の女性(21)は、父親が「養育費は一銭も払わない」と主張していることを母親を通じて知り、「離婚したら自分の子どものことすら、人ごとになってしまうんだな」と思ったという。
両親の不仲は子どもなりに気づいていた。「仲良くしてほしかったけれど、それがかなわないこともわかっていた」。母親と弟の3人で家を出てからの暮らしは厳しく、住まいを転々とした。調停を経て、養育費が支払われることにはなったが、1人あたり月2万円。「それで生活が楽になったことはなく、ずっと大変だった」
母親の苦労は理解しつつも、お金の心配をして過ごす思春期はつらく、父親に「もっと払ってほしい」と思い続けてきた。「子どもの成長には、きちんとした額の養育費が必要。養育費は親の義務であり、子どもの権利であることが社会にもっと浸透してほしい」
■将来の進路に影響
貧困は子どもの将来に大きな影響を及ぼす。
日本のひとり親世帯の貧困率(44・5%)は経済協力開発機構(OECD)の加盟36か国中32位と最低レベルだ。大学などへの進学率も全世帯の83・8%に対し、ひとり親世帯の子どもは65・3%にとどまる。
法務省が2021年、親の別居・離婚を経験した20~30代の1000人に実施した調査でも、4割が親の別居で生活が苦しくなったと答えた。
国立大学に通う近畿地方の女子学生(20)は小学6年の時、父親の借金問題で両親が離婚した。姉と自分の養育費の取り決めはあったが、払われていない。
私立中学、高校に進学したが、学費を工面するため、複数の奨学金に応募した。作文提出や面接を繰り返し、「なぜ私だけ」と重荷に感じたという。大学受験の際も塾には行かず、学校と図書館で勉強して乗り切った。
年に数回会う父親への心情は複雑だ。養育費は「子どもが将来を自由に選択するために、絶対に払われるべきだ」と考える一方、思いを直接ぶつけたことも、不払いの理由を尋ねたこともない。「聞くのはちょっと怖い」。父親とは音楽や文学の話で気が合い、今の関係を壊したくないためだ。
だから、自分への養育費は「借金の事情もあったし、仕方ないのかな」と諦めの気持ちでいるという。「国がもう少し教育費を支援してくれたら、ひとり親家庭の負担は軽くなると思う」と話す。
■貧困の連鎖解決へ
「養育費は離れて暮らす親と子どもを結ぶ『架け橋』」。そう語るのは、ひとり親を支援する一般社団法人「ペアチル」(東京)代表理事の南翔伍さん(31)だ。
幼い頃から、酒に酔った父親が母親に暴力をふるう姿を見て育ち、自身も被害を受けてきた。家族を苦しめた父親だったが、離婚後、自分と妹が高校を卒業するまで養育費は払った。「それがなければ母子3人で生活していくのは相当厳しかった」と振り返る。
「なんで払い続けたの?」。
数年前、ふと尋ねてみると、「筋は通さないとダメなんだ」と返ってきた。感情の表現が不器用な父親らしい答えだった。今も時折、連絡を取ったり、一緒に酒を飲んだりするのは「自分たちへの愛情がないわけじゃなかった」と思えるからだ。「もし払われていなければ『恨む対象』でしかなかった。子どもにとって、その違いは大きい」と言う。
ひとり親世帯が抱える課題を解決したいと、22年にペアチルを設立。ひとり親同士が交流できるアプリを開発し、養育費に関する情報も発信している。
政府は昨春、母子世帯の受領率を31年に「40%」に引き上げる目標値を初めて掲げたが、南さんはそれでも「低すぎる」と指摘する。
「養育費が当たり前の社会になれば『貧困の連鎖』の解決にもつながり、やりたいことを諦める子どもも減る。100%を目指してほしい」
(次回は6日掲載予定です)
公平な成長へ「もらって当然」
幼い頃に親が離婚した関東地方の会社員男性(27)
養育費は払われていたが、ひとり親は仕事と家事を全て担うので、両親がいる家庭に比べ、収入面や子どもの世話に費やせる時間が減りがちだ。養育費はその差を緩和し、できる限り子どもが公平に成長できるようにするためのもの。「払って当然、もらって当然」だと思う。
受け取らない母に疑問
小学生の時に両親が離婚した近畿地方の男子大学生(21)
養育費は払われてこなかった。父親のDVがあり、母親は「あの人から受け取りたくない」と話していた。今では母親の心情も理解しているが、中学生の頃は、お金がなくて家族が苦労や我慢をしているのに「なぜもらわないのか」と疑問だったし、行き場のない怒りがあった。