第2部 養育費<1>

「別居親」の不払い解消狙う 

スクラップ機能は読者会員限定です
(記事を保存)

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 連載「離婚と子ども」第2部は、ひとり親世帯の子どもの生活に欠かせない養育費について考える。ひとり親世帯の7割が養育費を受け取れていない中、5月の成立から2年以内に施行される民法などの改正法で、不払い対策が強化される。新設される「法定養育費」、給与などの差し押さえがしやすくなる「先取り特権の付与」、手続きの「ワンストップ化」を解説する。

差し押さえ 手続き簡素化 

■受領は26%

 離婚後に子どもと離れて暮らす「別居親」には民法上、子どもを扶養する義務がある。養育費は父母が協議離婚する際に取り決める事項の一つだが、取り決めなくても罰則はなく、離婚は成立する。

 そのため、厚生労働省の2021年度調査では、養育費について取り決めないまま離婚していたひとり親世帯は52・7%(母子世帯51・2%、父子世帯69・0%)に上る。取り決めがなければ、裁判手続きで別居親に養育費を支払わせるのは困難で、ひとり親世帯の受領率も26・4%(母子世帯28・1%、父子世帯8・7%)にとどまっている。

 今回の改正法は、父母は子どもが「自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない」と規定し、親の責任を明確にした。

■法定養育費

 改正法は、取り決めがなくても離婚時から別居親に法的な支払い義務が発生する「法定養育費」を新設する。ただし、対象は法施行後に離婚した父母になる。

 金額は「子どもの最低限度の生活の維持」に必要な額として、法務省がパブリックコメントを募集した上で定めるが、別居親の収入を問わず一律に設定するため、高額にはならない見込みだ。また、別居親が「支払い能力を欠く」または「著しく窮迫」する場合は減免される。

 法務省は「父母が養育費について合意するまでの補充的なもので、法定養育費さえ払えばよいというわけでは全くない」と強調している。

■先取り特権

 離婚時に取り決めをしていても、支払いが途中で滞る場合がある。現行では、別居親の給与などの差し押さえを地裁に申し立てるには、債権を公的に証明する公正証書や調停調書などが求められる。

 改正法は、民法上の「先取り特権」を養育費にも付与することで、申し立て時に公的な書類が必須ではなくなり、父母で合意した私文書だけで手続きができるようにする。法務省が今後、「子どもが○歳まで」「毎月○円を○口座に振り込む」など合意書に盛り込むべき情報を示す。

 法施行前に離婚していた場合も、取り決めの文書があれば法施行以降の養育費について付与される可能性がある。

■ワンストップ

 給与の差し押さえ手続きの一部も簡素化される。

 別居親の勤務先がわからない場合、現行ではまず地裁に相手の「財産開示」を行う。出廷しないなどで把握できなければ、自治体などに勤務先情報を提供してもらう「第三者からの情報取得」や「強制執行」の手続きを、その都度申し立てなければいけない。

 法施行後は財産開示を申し立てれば、ワンストップで手続きが進む。法施行前に離婚した場合も、法施行以降の養育費について適用される。

 国はこうした対策で母子世帯の養育費受領率を31年に40%まで引き上げたい考えだ。

 では養育費は子どもにとって、どれほど大切なものなのだろうか。次回は子どもの立場の声を紹介する。

<養育費>  子どもの経済・社会的自立にかかる衣食住や教育、医療などの費用。裁判所や日本弁護士連合会が父母の収入や子の年齢に基づき、金額の目安を公表している。裁判所の算定表では、別居親の給与が年収575万円、同居親が200万円の場合、14歳以下の子ども2人分で「月額8万~10万円」。

私的領域 踏み込み画期的 

「こども財団」理事長 津久井進さん
「こども財団」理事長 津久井進さん

「こども財団」理事長 津久井進さん 

 養育費の問題に詳しい弁護士で、公益財団法人「こども財団」(兵庫県明石市)理事長の津久井進さんに法改正の意義を聞いた。

 子育ては私的な領域である一方、社会や経済を持続させる上で、極めて重要で公的な課題だ。その私的な領域に踏み込んだ、画期的な改正だ。

 養育費は子どもの権利であるにもかかわらず、取り決めや支払いの有無は「百家族百様」だ。別居親に請求して初めて法的な支払い義務が発生するとされる上、相手との交渉が難しいなどの理由で、多くのひとり親が「もらえるわけがない」と諦めてしまう。さらにその決断は自己責任だとみなされてきた。

 「法定養育費」の創設により、最初の難関である「取り決め」を突破できる。ひとり親の認識や社会の前提が「諦め」から、「養育費は当然発生する」ことへと変わる意義は大きく、先取り特権の付与も評価したい。

 法律の実務家として、差し押さえ手続きのワンストップ化にも衝撃を受けた。現行は財産開示や強制執行などそれぞれに弁護士費用がかかる。手続きの簡素化で費用も抑えられるはずだ。

関西発の最新ニュースと話題
スクラップ機能は読者会員限定です
(記事を保存)

使い方
「地域」の最新記事一覧
注目ニュースランキングをみる
記事に関する報告
5957584 0 離婚と子ども 2024/10/31 05:00:00 2024/10/31 05:00:00 /media/2024/10/20241031-OYTAI50002-T.jpg?type=thumbnail

注目ニュースランキング

主要ニュース

おすすめ特集

読売新聞購読申し込みバナー

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)