鼻炎薬販促で根拠ない説明、塩野義製薬に行政指導…医師向け講演会で指針違反
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医療用医薬品の広告・宣伝に関する国のガイドライン（指針）に違反し、医師向けの講演会で薬の服用の方法や期間などについて科学的根拠のない説明をしたとして、厚生労働省が昨年１１月、「塩野義製薬」（大阪）に再発防止などを求める行政指導をしていたことがわかった。製薬会社が販売促進目的で主催する講演会を巡り、複数の指針違反が判明して行政指導に至るのは異例だという。（柏原諒輪）
販促目的の講演会
別の製薬大手による臨床研究データの不正利用問題などを受け、厚労省は２０１６年から医薬品の広告・宣伝活動を監視する事業を始め、安全対策の観点から１８年に指針を策定した。
指針は▽承認された用法や用量以外での使用の推奨▽虚偽や誇大な表現の使用▽他社製品の中傷――などを禁じている。罰則はないが、同省は、違反する場合には文書などでの行政指導にあたっている。
関係者の話や読売新聞が入手した資料によると、問題の講演会は昨年７月２１日、塩野義が販売しているアレルギー性鼻炎の治療薬「アシテア」の販促を目的に東京都内のホテルで開催され、百数十人の医師が出席した。
アシテアの添付文書には「通常、１回１００単位（の錠剤）を１日１回舌下投与から開始」「１回投与量は１００単位ずつ、３００単位まで増量」「漸増期間は原則として３日間」と記されている。しかし、同社から謝礼を受けて講師を務めた医師は、服用方法や用量について、「１００単位でどれだけ長く投与しても問題ない」などと説明した。
医師はさらに「安全、簡単、患者メリット大」と薬の有用性や安全性を強調したスライドを提示したほか、製造方法が異なる他社製品についてアシテアと「同一の製剤」と説明し、「いつ切り替えても問題ない」と話したという。
「他社製品の中傷」も
講演会に出席した医師から通報を受けた厚労省が調査を実施。添付文書記載の内容とは異なる医師の発言は「承認された用法や用量以外での使用の推奨」に、スライドの文言は「誇大な表現の使用」にあたり、指針に反すると判断した。
また、「いつ切り替えても問題ない」との指摘も、客観的なデータがないにもかかわらず、自社製品の優位性に言及したとして「他社製品の中傷」に該当すると認定した。その上で昨年１１月、再発防止に向けた改善計画の提出を求めるなどの行政指導をしたという。
塩野義は行政指導に先立つ同９月、講演会に出席した医師らに向けて文書を出し、「ガイドラインから逸脱した内容が含まれていた。主催メーカーとして深くおわびする」と謝罪している。
同社は読売新聞の取材に「資料を事前審査したが、審査部門の指摘が反映されないまま講演会が実施された」と説明。再発防止に向け、役員や従業員への研修強化などを盛り込んだ改善計画を既に厚労省に報告したという。審査部門がどのような指摘をしたかは明らかにしなかった。
別の製薬会社のベテラン医薬情報担当者（ＭＲ）は「近年は業界全体で科学的根拠に基づく適正な販売活動を進めている。いまだにこのような講演会を開いていたとは衝撃だ」と語る。業界のコンプライアンスに詳しい植地泰之医師も「医薬品を誤った方法で使用すると重大な被害を発生させかねない。講師を務める医師の意識改革も必要で、国は製薬会社の販促活動の監視を強化すべきだ」と話している。
厚労省は「個別の行政指導については回答を差し控える」としている。塩野義は１８７８年創業の老舗で、２０２４年３月期の連結売上高は４３５１億円。２５年３月期のアシテアの売上高は前年比約２倍の１３億円と見込まれている。
