信頼できる情報 選択重要…偽情報・誤情報対策座談会

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SNSなどの偽・誤情報を防ぐ座談会 動画

 SNSなどで広まる偽情報・誤情報の問題について議論する座談会(読売新聞東京本社主催、グーグル合同会社協力)が読売新聞東京本社で開かれた。プラットフォーマーや日本の政府、メディアの各担当者、研究者が参加し、偽・誤情報の現状や対策について意見を交わした。

榎戸教子さん
榎戸教子さん

 座談会は昨年12月16日に開かれ、グーグル・ニュースパートナーシップ本部アジア太平洋地域マネジング・ディレクターのケイト・ベドー氏、川崎秀人・総務大臣政務官、山本龍彦・慶応大教授(憲法学)、山口真一・国際大准教授(社会情報学)、堀竜一・読売新聞東京本社取締役メディア局長が参加した。フリーアナウンサー・経済キャスターの榎戸教子さんが進行役を務めた。

官民が連携し早期対応…総務大臣政務官 川崎秀人氏

 ――偽・誤情報は巧妙化し、また身近になっている。こうした状況に、政府はどう取り組んでいるのか。

川崎秀人氏
川崎秀人氏

  川崎氏  能登半島地震では偽の救助要請が投稿され、実際の救助業務が妨害された。選挙でも悪質な情報が広まり、選挙の根幹である民主主義を揺るがしている。

 こうした事態を受け、総務省の「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」は(昨年)9月、偽・誤情報対策の考えを取りまとめた。〈1〉情報リテラシーの向上〈2〉プラットフォーマーによる偽・誤情報の削除対応等の環境整備〈3〉偽・誤情報を技術的に判定する仕組み――が大きなポイントだ。

 〈2〉については(今年5月までに施行される)「情報流通プラットフォーム対処法」で対応し、今後詳細を詰める。ただ、(デジタル空間は)移り変わりが速いため、今までの政治の進め方で法案を作ると、どうしても(対応が)遅くなってしまう。制度的対応以外の手段も組み合わせて、官民が連携し素早く対応する必要がある。

高品質の情報 上位表示…グーグルマネジング・ディレクター ケイト・ベドー氏

 ――グーグルはプラットフォーム事業者として、どう取り組んでいるのか。

ケイト・ベドー氏
ケイト・ベドー氏

  ベドー氏  グーグルの使命は、世界中の情報を整理し、誰もがアクセスできて使えるようにすることだ。それには信頼できる情報へのアクセスを確保することが非常に重要となる。

 偽・誤情報には、グーグル全体で対処している。その一つがエコシステム(生態系)へのサポートだ。私たちは、日本ファクトチェックセンターの運営支援や、デジタルツールの使い方などを学ぶジャーナリスト向けの講習など、質の高いジャーナリズムを支援するために継続的に取り組んでいる。

 意図的に害を与える悪意のある行為者への対応も強化している。毎日、何百万という悪意があるであろう内容を排除し、そのリポートを公開するなど透明性を保つための活動をしている。

「OP」で発信者情報を認証…読売新聞東京本社 取締役メディア局長 堀竜一氏

 ――メディアは偽・誤情報にどう対処しようとしているのか。

堀竜一氏
堀竜一氏

  堀氏  偽情報のリスクに対処するため、新聞社、テレビ局、プラットフォーマーなどが協力して「オリジネーター・プロファイル(OP)」と呼ばれるデジタル技術の開発を進めている。発信者の情報を第三者機関が認証した上で、記事が改ざんされていないことを証明する識別子が付与される。2025年度、読売新聞をはじめ一部メディアによる実装を予定しており、将来的には国際標準化を目指している。

「情報的健康」で耐性獲得…慶応大教授(憲法学) 山本龍彦氏

 ――山本さんや山口さんの考えは。今後求められる対応は。

山本龍彦氏
山本龍彦氏

  山本氏  憲法学では、有害な情報や思想は適切な反論や批判がなされることで市場から自然に 淘汰とうた されるという「思想の自由市場論」が主流だった。現在の情報空間はエコーチェンバーなどで批判が届かないか、過度に分断して批判が攻撃となる。情報空間全体のレジリエンス(回復力)が失われ、思想の自由市場論の前提が揺らぎつつある。

 そこで「情報的健康」という考え方が重要だと考えている。今の情報空間では、情報を偏って食べ、安全性を確かめずについ暴飲暴食してしまう。それにより偽・誤情報に対する耐性が落ちてしまっている。

 様々な情報をバランスよく摂取して、自らが摂取する情報の真正性、安全性を意識することで、耐性を獲得し、各人の幸福を追求できる環境の構築が重要だろう。

リテラシー教育は必須…国際大准教授(社会情報学) 山口真一氏

山口真一氏
山口真一氏

  山口氏  偽・誤情報に対する法規制について調査したことがあり、4人に3人ぐらいが「法規制すべきだ」と回答した。私以外の調査でも似たような結果が出ている。

 だが、安易な法規制は表現の自由にネガティブな影響を与える可能性もあり、慎重に考えるべきだ。海外では偽・誤情報を規制する法律が言論統制に使われる事例もある。最小限の規制で、社会全体の利益を最大にする観点が重要になる。

 ――ベドーさんから質問があれば。

  ベドー氏  情報的偏食の話は興味深かった。偏食は健康によくないと一般の人が気付くには、どういう動機付けが必要と考えるか。

 山本氏 情報的な不健康は具体的な痛みが出るわけではない。むしろ本人は快楽を味わっているかもしれない。まずは情報の偏食や暴飲暴食が私たちの神経システムや心理にどういう影響を与えるのかを実証的に研究する必要がある。

 その上で、現在の自分の情報摂取行動を可視化し、自ら振り返られるような仕組みの構築などが考えられる。

  山口氏  英国の研究機関によると、人々が環境について行動変容するのに最も影響を与えていたのが、インフルエンサーの言説だった。インフルエンサーやマスメディアなどと「情報的健康」という概念を分かりやすく伝えていく、地道な取り組みが重要だ。

新聞 真偽見極めの力養う

グーグル、政府、メディアの担当者や研究者が出席した座談会(2024年12月16日、読売新聞東京本社で)=今利幸撮影
グーグル、政府、メディアの担当者や研究者が出席した座談会(2024年12月16日、読売新聞東京本社で)=今利幸撮影

 ――リテラシー向上について議論を進めたい。デジタル社会の中で、私たちが情報を受け取り、利用していくために、取り組んでいることは。

  堀氏  新聞社の新聞紙面やニュースサイトは、フェイクを見抜く能力を育てる最適な道具だと思う。信頼できる情報が並ぶ紙面やサイトを眺めるだけでも、真偽を判断する視座を養うことができる。新聞は情報リテラシーの育成に適したメディアであり、教育現場での活用を広げていきたいと考えている。

  ベドー氏  グーグルはネット検索を提供する責任を真剣に受け止め、可能な限り、利用者が自分で(検索内容を)確認、判断できるようにしたいと考えている。

 その一つが、質の高いコンテンツを表示することだ。当社の検索システムは、最も信頼できる情報源から関連情報を表示するよう設計されている。利用者が高品質の情報を素早く入手できるよう、毎年何千もの改善を行っている。

 利用者との情報共有も非常に重要だと考えている。(グーグル傘下の)ユーチューブは偽・誤情報対策の一環として、2023年から総務省、国際大と連携してキャンペーン「ほんとかな?が、あなたを守る。」を始めた。フェイクニュースが日常生活に潜む可能性があることを認識し、対処する方法を考えてもらうのが目的だ。

 ――利用者は情報をどう取捨選択し、伝える傾向があるのか。

  山口氏  グーグル・ジャパンと行った最新の研究成果によると、偽・誤情報に接した半数以上が「正しい情報」と思っていることが判明した。偽・誤情報は家族、友人、知人との直接の会話による拡散が最も多いことも分かった。偽・誤情報は口づてとネットを合わせた情報空間の問題として対処する必要がある。

 また、読売新聞と行った共同研究では、日本はネット上の情報を検証している人の割合が米韓に比べて低かった。日本はマスメディアの信頼性が比較的高いとされる。そのため、主にマスメディアを情報源としてきた層は、情報の真偽を検証する習慣が十分に根付いておらず、ネット上の情報にも同じ感覚で接している可能性がある。

 ――では、利用者は情報とどう向き合うべきか。

  山本氏  リテラシーの第一歩は現在の情報空間の仕組みを理解することだ。なぜSNSを無料で使えるのか知らない人も少なくない。

 SNSでは、閲覧数などがプラットフォーム事業者の広告収益につながっている。こうした構造が、内容はともかくアテンション(注意、関心)を取った者勝ちという文化に結びついてしまっている。

 AIの導入で、一人ひとりの 嗜好しこう にあった情報を提供することが可能になり、中毒状態が作り出されるとも指摘されている。

 こうした問題を受け、慶応大の「 クロス ディグニティセンター」では、アテンション・エコノミーに覆われた現在の情報空間が人間の尊厳に与える影響を領域横断で研究している。リテラシー教育でも、アルゴリズムに一方的に情報をお薦めされる世界の中で個人の主体性や尊厳をいかに回復するかが問われている。

 ――私たちが日常的に情報と向き合い、立ち止まって考えるようになるにはどうすべきか。

  山口氏  メディア情報リテラシーを教育課程に取り入れることが最も重要だ。自信のある人ほど偽・誤情報にだまされる傾向があり、謙虚な姿勢で情報空間に接すべきだと教える必要がある。

 災害や選挙などで、どのような偽・誤情報が拡散しやすいのかを事前に伝えておくのも有効だ。「プレバンキング」と呼ばれる手法で、ワクチンを接種して病気を予防するように、偽・誤情報にだまされにくくなることが期待できる。

 ――総務省としての取り組みは。

  川崎氏  豪州では最近、16歳未満のSNS利用が禁止されたが、人口減少が進む日本では、持続可能な社会を作るために、デジタルツールを取り上げてしまうのではなく、正しく使えるようにしなければならない。

 また、山口さんから説明があったように、偽・誤情報は家族、友人、知人との会話からも 伝播でんぱ していくため、もっと視野を広げて対策する必要がある。総務省としては25年の早い時期に官民が連携した体制を整えて、リテラシー向上の取り組みを推進していきたい。

◆Xディグニティセンター= AI時代の人間の尊厳(ディグニティー)について領域横断的に研究するため、昨年7月に設置された。〈1〉AIと人間の差異に関わる総合研究〈2〉概念と歴史〈3〉科学と未来〈4〉規範と制度――の四つのユニットに分かれる。山本龍彦教授らが共同代表、山口寿一・読売新聞グループ本社社長がアドバイザリーボードの議長を務める。

選挙や災害で社会問題化…生成AI普及で増加 危惧

 座談会では冒頭、偽・誤情報問題の現状について山口准教授が解説した。

 偽・誤情報は選挙、災害、戦争など様々な場面で大きな社会問題となっている。

 昨秋の衆院選や兵庫県知事選では、様々な偽・誤情報が拡散。インフルエンサーが真偽不明の情報を発信し、大きな影響力を持ったとされる。

 昨年1月の能登半島地震でも、偽の救助要請のほか、東日本大震災の津波の映像を流して被害規模を誤認させる投稿や、「外国から大量の窃盗団が入ってきている」といった偽情報がSNS上に飛び交った。

 問題を深刻化させているのが、生成AI(人工知能)の普及だ。山口准教授は、誰もが生成AIで偽動画や偽画像を作れる「ディープフェイクの大衆化」が起きているとし、今後、偽・誤情報が爆発的に増加する「ウィズ・フェイク2፜0時代」が来ると予想する。

 さらに、誰もが安価に世論工作をしたり、社会を混乱させたりできる「世論工作の大衆化」も起きていると指摘。報酬目当てに、AIで世論工作テキストを大量に作り、SNSに投稿することが組織的に行われており、「SNSなどと生成AIを組み合わせることにより、国際世論の工作や誘導も容易になっている」と説明した。

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