断頭台では砕けた顎がだらりと下がり、苦痛に叫んだ…「恐怖政治の元凶」ロベスピエールはなぜ悲惨な最期を迎えたのか?

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ロベスピエール

『ロベスピエール』

著者
髙山 裕二 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
歴史・地理/伝記
ISBN
9784106039157
発売日
2024/11/20
価格
1,925円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

鹿島茂・評 『ロベスピエール 民主主義を信じた「独裁者」』

[レビュアー] 鹿島茂(フランス文学者)

 では、この仮説に対し、本書はどう答えているのだろうか? 伝記的検証の後に設けられた第20章「マクシミリアンの影」が示唆的だ。というのもこの章ではロベスピエールと恐怖政治との関係が次のような観点から分析されているからである。

(1)ルサンチマン説
大革命の主体となったマラのような人物を駆り立てたのは「旧体制や特権階級への憎悪と嫉妬」つまりルサンチマンであり、それが復讐的・懲罰的な処刑・暴力を呼び起こし、革命を救うための独裁を肯定した。清廉の人であるロベスピエールはルサンチマンとは無縁であったが、ルサンチマンから恐怖政治へと向かう動きを阻止できず、渦中の人となってしまった。

(2)陰謀論
 革命初期に王侯貴族や僧侶を断罪するためにつくりだされた「敵」のイメージが、次には「味方の中に潜む敵」すなわち、旧来の敵と結託して反革命の陰謀を企てる内部の敵へと向けられるようになるが、ロベスピエールもブリソ派(ジロンド派)を敵と認定して以後はこの陰謀論を免れなかった。

(3)システムの支配説
 国民公会にしろ公安委員会にしろ独裁できないような集権的なシステムであったがゆえにむしろ恐怖政治が招来された。国民公会ではジャコバン派は三分の一程度で、多数派は平原派と呼ばれる穏健派だった。「この穏健な多数派が、結果的に〈システム〉を下支えした」。つまり、多数派は初期にはナショナリズムに押されてブリソ派を、ついで戦況不利になるとジャコバン派を、そしてジャコバン派が分裂するとロベスピエール派を、そして最後は自分たちが狙われていると感じてアンチ・ロベスピエール派をそれぞれの段階で支持したが、ではいったい多数派がそれぞれの選択において依拠したのは何だったのか?

 それは多数派の自己利得であった。「清廉の人とは、〈腐敗していない人〉を意味する。彼がそう呼ばれたことは、逆にそれ以外の多くの政治家が腐敗し、利得のために妥協したことを示している」。

 たしかにそうだろう。だが私が理解できないのは自己利得に敏感な多数派がブリソ派やダントン派との対決において、同じく利に聡いブリソ派やダントン派ではなく、清廉なロベスピエール派に加担したのはなぜかということである。

 思うに、多数派は、ロベスピエールが拠っていた美徳が自分たち以外(ブリソ派、ダントン派、さらにはエベール派)に向けられている限りは、美徳という刃の鋭さにルサンチマンの充足を感じ、同時に善悪二元論的な陰謀論に拠ってロベスピエール派を支持したが、ロベスピエール派がいよいよ美徳という刃を自分たちに向けようとしていると察知したとたん命と自己利益を脅かされたと感じて反撃に出たということではなかろうか? 自己利得に聡い人ほど、美徳が自分たちを侵犯しない限りにおいて美徳を支持するものなのである。

 ルソーは共同体の一般意志が「おまえは死ななければならない」と命じたら共同体の成員は死ぬほかないようなものが一般意志だとしたが、革命の全過程を支配したのは結局のところ多数派の自己保存本能に基づく一般意志であり、ロベスピエールといえどもこの一般意志には従うほかなかったのだ。

 「美徳」の二面性という観点から大革命を見直すことで、「独裁者ロベスピエール」という紋切型を打破するのに成功した優れた評伝である。
 
 ***
 
著者:髙山裕二(たかやま・ゆうじ)
1979年、岐阜県生まれ。明治大学政治経済学部准教授。2009年、早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。博士(政治学)。専門は政治学・政治思想史。主な著作に『トクヴィルの憂鬱 フランス・ロマン主義と〈世代〉の誕生』(白水社、サントリー学芸賞受賞)、『憲法からよむ政治思想史(新版)』(有斐閣)、共著に『社会統合と宗教的なもの 十九世紀フランスの経験』、『共和国か宗教か、それとも 十九世紀フランスの光と闇』『フランス知と戦後日本 対比思想史の試み』(いずれも白水社)。

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新潮社 波
2024年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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