【患者間殺人隠蔽事件】証言〈下〉説明、記録事実と食い違い 元院長らの意向くんだか
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2023年3月13日午前10時頃、みちのく記念病院に入院していた男性(当時73歳)の妻(64)に病院職員から電話があり、夫が危篤状態にあると知らせてきた。「転んで、容体が急変しました。酸素を吸入します」
実際は、男性は前夜に相部屋の男から歯ブラシで顔を何度も刺され、13日朝に心肺停止状態になっていたが、病院はうその説明をしていた。
妻によると、最初の連絡からわずか数分後、再び電話が入った。「亡くなりました。葬儀屋はどこですか」。妻は「そんなにすぐ死ぬのか」とあっけにとられたが、病院に急いだ。
「警察が確認する遺体じゃないのか……」
13日正午頃、病院に着いた葬儀会社の遺体搬送係の男性は病院の対応に強い違和感を覚えた。霊安室前で男性の遺体をストレッチャーに移そうと近づき、息をのんだ。血のようなものがにじんだ包帯が顔に何重にも巻かれていた。包帯の隙間からのぞく口元に何かがささったようなへこみも見えた。
「階段から落ちて頭を打ったんですよ」。その場にいた女性の病院職員はそう口にした。
同じ頃、病院に到着した男性の妻も病院の対応に不信感を持った。
霊きゅう車用の駐車スペースに案内されると、女性の職員が「転んじゃって」と話し、「肺炎」とうその死因が書かれた死亡診断書が入った封筒を渡してきた。妻によれば、医師から死亡時の経緯の説明はなく、看護師や職員が手を振りながら男性と妻が乗った霊きゅう車を見送った。
犯人隠避容疑で逮捕された当時院長の石山隆容疑者(61)、その弟で男性の主治医だった石山哲容疑者(60)。読売新聞が入手した内部資料では、その意向をくんだかのような行為も確認できる。
男性の看護記録には、第一発見者の看護師が「12日23時45分」に現場の病室を訪れた際の内容としてこう記されている。
「■顔面裂傷 物音にて訪室。
自身が書き換えたと明かした看護師や別の病院職員によると、もとの記録には男性が危害を加えられたことを示す記載があったという。殺人事件の確定判決によると、男性は両手をひもでベッドに固定されていて、徘徊できる状態ではなかった。この点も事実と異なる。
書き換えたとみられる時刻は「13日14時16分」となっている。書き換えた看護師は、男性の遺体が遺族に引き渡された後、男性の治療が行われていたフロアを訪れたという。その際、「(同僚から)『こんな記録が残っていると院長が困る。変えてください』と頼まれた」と明かし、「徘徊する人だと聞いていたからそういう内容にした」とも証言した。
病院は事件の発生を県警に通報していなかったが、13日午後6時過ぎ、1人の職員が交番に情報提供し、県警が事件を把握する。この職員によると、13日の院内は事件の話で持ちきりだったといい、「これを
「このまま遺体を火葬されたら困る」
13日午後8時過ぎ、葬儀会場にいた男性の妻の携帯が鳴り、電話口の警察官はそう話した。捜査関係者によると、県警がその後に別の病院で撮影した肺のCT(コンピューター断層撮影法)画像では肺炎特有の影は見られず、弘前大で行われた司法解剖でも肺炎の痕跡は確認されなかった。
複数の医師、職員がからみ、事件の隠蔽を図った疑いが浮上した。県警がみちのく記念病院の強制捜査に踏み切ったのは事件から1か月半後の23年4月28日だった。
(おわり)