【患者間殺人隠蔽事件】証言〈上〉 治療現場医師現れず 直接診察なく医療行為
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2023年3月、みちのく記念病院(八戸市)で起きた患者間の殺人事件を
「血だらけでほとんど虫の息だった。助かるとは思えなかった」
殺人事件の被害者で、入院していた男性(当時73歳)が襲われた日の状況を知る病院職員はそう振り返る。
見回りの看護師が病室の異変に気づいたのは23年3月12日午後11時45分。2階にある療養患者向けフロアで物音に気づき、現場の病室を訪れると、男性がベッドに横たわり、顔から大量の血を流していた。
男性に激しい暴行を加えたのは相部屋の男(59)(殺人罪で懲役17年が確定)だった。「拘束されたから、殺してやろうと思った」「歯ブラシで、何度も刺した」。読売新聞が入手した男の看護記録には、男がそう話す様子が記されている。
病院職員の証言によると、第一発見者の看護師は医師に連絡するためか、ほどなく現場を離れ、ペアの同僚が男を押さえつけていた。駆けつけた応援の看護師らが男性の止血に当たったが、腫れと出血で顔の判別ができないほどだったという。
男の公判で読み上げられた看護師らの調書によると、男性は担当の看護師らが対応しやすいよう、夜間は両手をベッド柵に固定されていたという。この日もひもで拘束されており、抵抗できなかったとみられている。
「複数の外傷がある」。捜査関係者によると、第一発見者の看護師はほどなく、男性の主治医・石山哲容疑者(60)に一報を入れた。みちのく記念病院に救急や高度な外科処置に対応できる機能はないが、病院は男性を別の病院に搬送せず、院内での治療を選択した。
「主治医連絡。1階病棟転棟指示あり」
男性の看護記録では、翌13日午前0時25分頃、男性は治療に必要な器具がある内科フロアに移された。ここは哲容疑者の兄で院長・石山隆容疑者(61)が管理する。
男性の診療記録によると、哲容疑者は電子カルテに接続し、二つの医療行為を指示していた。13日午前0時35分に止血剤の使用と、同1時15分に血液検査のための採血だ。捜査関係者によると、哲容疑者は院内におらず、男性を直接診察していなかった。
記録上、採血の後の医療行為の指示は隆容疑者の名義になっている。たんの吸引、酸素吸入が行われたが、男性は13日午前8時半頃に心肺停止状態になったとみられ、午前10時10分に死亡が確認された。
捜査関係者によると、隆容疑者も12日深夜から13日早朝にかけて院内にいなかった。記録上、医療行為の指示は看護師が隆容疑者の名義で出し、看護師だけで治療に当たっていた。診療記録には、指示の「代行者」として複数の看護師の氏名が残る。これらの指示は、男性の死亡確認から2時間近くたった13日午前11時57分58秒にすべて隆容疑者の名義で「承認」とある。
結局、男性が襲われてから隆、哲の両容疑者、他の医師も治療の現場に現れることはなく、男性は命を落とした。
病院は、医師がすぐに駆けつけられる態勢があるとして当直医の免除を県から認められていたが、一部の看護師によると、夜間に入院患者の容体が急変しても、医師と連絡がつかない日は多かった。ある看護師は言う。「医師の指示がないまま、看護師が医療行為をするのはいつものことだった」