サンドラがみる女の生き方

産まなかった女~それぞれの「ストーリー」

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先日、ある雑誌(美ST)にLINKSという言葉が載っていました。子どもがいないからこそ愛が深まったという、“Love increase no kids” の略なのだそうです。雑誌では、子供がほしかったけれど、授からなかったカップルのそれぞれのストーリーと、結果的にパートナーとどのように愛が深まったかを写真とともに紹介していました。

「子を持たない女性」は、本当はほしかったけれど結果的に授からなかった場合も、最初から子供は望んでいない場合も、その女性その女性の「ストーリー」があります。

サンドラの場合「ハーフであること」に悩んだ日々

写真はイメージです
写真はイメージです

私の場合、単刀直入に言うと、「自分が時間をかけて克服してきたものについて、今度はまた親としてかかわるのは嫌」。これに尽きます。なんだかとてもワガママな主張ですね。まあ聞いてください。

私は父親がドイツ人、母親が日本人のいわゆる「ハーフ」なのですが、子供の頃からドイツの学校に通い、かつ補助的にではありますが日本の学校にも通う生活をしてきました。

思春期になった頃には、「自分は何人(なにじん)なのか」が分からなくなっていました。

つまりは「自分がドイツ人なのか、日本人なのか」「どちら側に属す人間なのか」「そもそも、どちらかに属すといえるのか」などと複雑な悩みを抱えることになり、大人になってからもモヤモヤした気持ちは消えませんでした。

要は自分のアイデンティティーに悩んでいたわけですが、時は流れ、30代になり、そしてやがて40代になった今、それらの悩みは和らぎました。

同じ悩みに向き合うにも「器」がいる

自分なりに仕事や人間関係を通して悩みを克服できたので、今はだいぶ生きやすくなった感があります。そんな中、私は数年前に結婚をし、夫はロシアと日本のこれまた「ハーフ」です。私達のあいだに子供が生まれるとなると、今度は「親の立場」として、「子供には何語を教えるべきなのか。日本語のみか、それともロシア語とドイツ語も全部教えるべきか。だとしたら本人の負担にならないだろうか」などと心配事ばかりが頭に浮かびます。

学校一つにしても「通う学校はロシアの学校? 日本の学校? それともドイツの学校? でも、そこで三つの国にルーツを持つ子は居心地良く過ごせるだろうか。浮いてしまわないだろうか。子供本人が『自分は何人(なにじん)なのか』と自らのアイデンティティーに悩むことにはならないだろうか」などと考えてしまいます。

自分がかつては「当事者」として体験してきた、これらのややこしい事を、今度は「親」として再度体験する気にはとてもなれないのでした。もちろん同じような体験をしていても、それを「自分が子供を持つ際に生かそう!」という器の人もいます。でもどう考えても私はその「器」ではないのでした。そのため早々と子を持つことについて諦めたという次第でございます。

ドイツ流次世代への考え方

ドイツで子供を持たない人たちに、理由を聞いてみたことがあります。その中に、「個人的な理由というよりは『一般的』な理由で子供を持たない」と答える人たちがいます。それは「地球温暖化や紛争などの世界情勢を考えると、『次世代にこの世を見せてあげよう』とは思えない」という事に行きつくようです。

いかにもシビアでドイツ的な意見ですが、それを言う彼らは彼らなりに考え、かつ自分の人生は自分の人生で楽しんでいるようなので、これもある意味、前向きな選択なのかもしれません。

今回は「私の場合」をお話ししました。あなたの場合はどうですか? 子どもを持っても、持たなくても「あなただけのストーリー」がある。それがどんなストーリーであっても尊重され、自信を持てるといいなと思っています。

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プロフィル

サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住20年以上。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」。著書に「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)など。新著は「ドイツの女性はヒールを履かない――無理しない、ストレスから自由になる生き方」(自由国民社)。
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