サンドラがみる女の生き方

スーパーウーマンにはなれない私の産まない選択

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少子化問題がそうさせているのか、近頃、産まない女性に対する視線の厳しさを感じます。あからさまに「なぜ子供を持たないの?」と直球で聞く人もいますし、言葉には出さずとも「あの人はなんで子供を産まないのかなあ」なんて思われがち。かくいう私も40代に突入して3年目になろうとしていますが、ご丁寧にも「今ならまだ間に合うよ」と忠告してくれる人もいます。

でも、私に「ギリギリ間に合わせよう!」という思いはありません。人それぞれだと思いますが、今回は自己紹介も兼ねて私自身の「産まない理由」を語ってみたいと思います。

睡眠3時間でも笑顔、私には無理

写真はイメージです
写真はイメージです

私はドイツ人の父親と日本人の母親の間に生まれたいわゆる「ハーフ」です。日本人とも欧米人とも交流する中で、私の周りには、子だくさんで幸せそうな女性が身近に何人かいました。でも、すぐに気付いてしまいました。「私はこのような女性にはなれない」と。なぜなら、彼女たちはスーパーウーマンなのでした。

子供を何人も育てながら、彼女たちは外で元気に働いていてパフォーマンスも落ちず、家の用事もこなし、健康に問題もない。「疲れた」というような言葉は聞いたことがなく、いつも笑顔です。

でも、話を聞くと、「子供が小さいうちは3時間続けて眠ったことがない」と言うではありませんか。

それを聞いて「私には無理」と早々にあきらめました。私の睡眠時間は9時間。たまに5、6時間しか睡眠がとれない日が続くと、すぐに風邪をひき、やがてそれが悪化し中耳炎になったりします。体力がないのです。

夫も私も不器用、やっとこさ生きてます

なお、日常生活では家事の段取りが異様に悪く、全体的に不器用で「やっとこさ生きている」感じです。そう、単刀直入に言ってしまうと、私は自分で自分の面倒を見るのに精いっぱい。そして、それはロシアと日本のハーフである夫も一緒のようです。子供も家事も仕事も夫婦生活も、そつなく笑顔でこなし、かつ病気もせずやってのける「スーパーウーマン」には絶対になれない。でも、そのことを、子を持つ前に分かって良かったと私は思っています。

そういえば、昭和の時代には、結婚する際「私、不器用なので、家庭と仕事の両立ができないんです。だから仕事はやめて家庭に入ります」という言い方をする女性もいたとのこと。この「不器用」というのは実感として、とてもよく分かるのです。だから、私の場合は「不器用なので、産みません」ということになるのでした。

もしかしたら、私の育った国の文化も「子を持たない」という選択を後押ししているのかもしれません。思えば、育ったドイツでは「墓を守る」という概念はありません。「家(家系)が途絶える」という考え方も今はまれです。よって親世代からの「孫」プレッシャーがあまりありません。ドイツの中年や老人は孫を待ち望むよりも、自身の恋愛生活や恋愛活動に忙しかったりします。ドイツではみんな年齢を問わず「自分の幸せ」を追求している印象です。

話題の「母親になって後悔」

ドイツで最近話題になった論文があります。子供のいる女性に「もし、今『時計の針』を戻せるとしたら、あなたは母親になることを選びますか?」の質問に「ノー」と答えた23人の女性にインタビューをしたイスラエルの社会学者Orna Donath氏の論文「#Regretting motherhood」(母親になって後悔する)です。

論文に登場する女性の名は仮名ですが、この論文をもとにドイツの女性ライター達が実名で「私の場合はこうでした」とそれぞれの話を書いた本が話題になっています。たとえばSarah Fischer氏の本のタイトルは「母親であることがハッピーだという嘘」、サブタイトルは「私が(母親ではなく)父親になりたかった理由」です。

読み進めてみると、「子供」といっても母親と父親とでは負担が違うことが現実的な話として書かれています。象徴的なのは本の最後のほうに書かれている「彼(パートナー)は子供が生まれた後も、自分のそれまでの生活を特に大きく変えることなく、自分の人生をそのまま歩き続けた。一方、私は子供ができたことで、生活において「できなくなること」が多くなり、全てにおいて変わることを余儀なくされた」のくだり。「子」を前にするといわゆる「男女平等」は現実的ではないことがうかがえます。

日本でも子供が生まれてから夫婦間に生じる問題について、最近取り上げられるようになりました。「子はかすがい」と言うけれど、現実はそうもいかないのかもしれません。それでも世間には確かに「子供を持つべき」という価値観が存在します。その価値観はどこからくるものなのでしょうか。次回はその裏にあるものに迫りたいと思います。

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プロフィル

サンドラ・ヘフェリン
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住20年以上。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動中。ホームページ「ハーフを考えよう!」。著書に「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)など。新著は「ドイツの女性はヒールを履かない――無理しない、ストレスから自由になる生き方」(自由国民社)。
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