新作映画「ゆきてかへらぬ」の根岸吉太郎監督、描いたのは中原中也・小林秀雄らの「キリキリした生き方」
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ベテラン、根岸吉太郎監督の16年ぶりの新作「ゆきてかへらぬ」が21日、公開される。若き中原中也と小林秀雄、新進女優の長谷川泰子の複雑な関係を通し、根岸監督が描いたのは「若いがゆえのキリキリした生き方」という。(近藤孝)
大正時代。20歳の泰子(広瀬すず)は17歳の中也(木戸大聖)と出会う。泰子は女優として、中也は詩人として、才能の萌芽が見られていた。そんな2人の間に分け入ってくるのが、中也の詩才を見抜いた文芸評論家、小林秀雄(岡田将生)だ。
実在した3人のつかず離れずの関係を、根岸監督は単純な恋愛関係でなく、「詩や文学を志す者と映画や演劇を志す者との結びつき」ととらえた。
シナリオを書いたのは田中陽造。「ツィゴイネルワイゼン」などを手がけ、根岸監督とは「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~」などで組んだ名脚本家だ。田中が「ゆきてかへらぬ」を執筆したのは40年近く前。多くの監督が映画化を望んだと言われ、根岸監督も「20年ぐらい前に読む機会があった」という。「面白いシナリオで、登場人物たちのユニークな関係に興味をもった」
根岸作品は、都市化が進む農村で働く青年を描いて高く評価された「遠雷」(1981年)以来、若者が主人公だったり、円熟や老成とはほど遠い中年を描いたりすることが多かった。「ゆきてかへらぬ」も、そのような“青春映画”の系譜に連なるのだろうか。
「結果としてはそうかもしれない。彼らの年齢を考えれば」。そう言いつつ、「でも、何かを乗り越えて大人になっていくという、いわゆる青春映画とはまるっきり違う」とも。「3人は特殊な才能を持っているがゆえに、強烈に自分たちの生き方を探していた。映画では彼らがぶつかり合うところを、きちっと描いたつもりだ」
俳優たちは、「実在の人物について、よく勉強してくれた」とたたえる。木戸は、「中也の詩や関連の文章を読んでいる。中也の故郷の山口県にある記念館にも行き、体感的に中也をつかんでくれた」と言い、岡田も「小林の書いたものを渡して、読んでもらった」と振り返る。
広瀬については、「一番難しかったのでは」と話す。「泰子についての本は読んでいるだろうけど、年代の幅があり、生き方も考え方も変化している。つまり、演じ分けないといけない大変さがあったと思う」
泰子は、中也や小林の才能を認め、彼らに愛され、神経症的になりながら、2人の間を行き来する。「この役は理解しにくい。だから、監督も俳優も理解できないまま、一つ一つのシーンを積み上げていって、一人の人間を浮かび上がらせるしかなかった。そういう人なんだ、長谷川泰子は」