老舗菓子司 決意の再開

スクラップ機能は読者会員限定です
(記事を保存)

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

祇園豆平糖を手に「店を守っていきたい」と語る井上さん(東山区で)
祇園豆平糖を手に「店を守っていきたい」と語る井上さん(東山区で)

するがや祇園下里7代目 井上真由美さん 44

 祇園の八坂神社に近い花街の一角で今夏、コロナ禍にのれんを下ろした老舗菓子司が再出発を切った。7代目として店の復活にこぎ着けた責任をかみ締め、活気を取り戻した店頭に立つ。

 1818年(文政元年)に創業した「するがや祇園下里」(東山区)では2年前、経営していた6代目と連絡が取れない状態となった。透き通った 琥珀こはく 色のあめに、いった大豆を絡めて伸ばした「祇園 豆平糖まめへいとう 」などの看板商品は、全国から注文が寄せられるほどの人気を誇っていた。

 当時は専門商社の会社員。店は母冨三子さん(73)の実家だが、「店を継がんもんはでしゃばったらあかん」というしきたりを守り、百貨店などに銘菓が並ぶのを見て、店の繁盛を感じていた。そんな中で耳に入った閉店の一報。6代目に何が起きたのかは分からなかった。

 昨年3月、不動産業者から、店舗の所有権が一部、他人の手に渡っていたと聞いて衝撃を受けた。

 「何か自分にできることはなかったか」。複雑な思いとともに、5代目の祖父が営んでいた店舗に遊びに行った頃の記憶が浮かんだ。

 できたてのお菓子をくれる職人、あめを煮詰める熱気、煎餅を焼く香ばしい香り、お客さんとの会話を楽しむ祖父母――。居心地の良い、温かい場所を守れるのは自分しかいないと決意し、業者から土地と建物を取り戻した。

 先代とは連絡を取れないままで、ゼロからのスタート。店に残された古い納品帳や職人たちの記憶を頼りに、「前にお取引させてもらっていたんですけど、またお願いできませんか」と一軒一軒に連絡を入れた。新参者を受け入れてもらえるか不安だったが、かつての取引先からは「何でも言うとくれやす」と励まされ、お客さんからも「心待ちにしていた」と応援された。

 当時はMBA(経営学修士)を取得できる経営大学院を卒業する目前だった。学んだ知識をフル活用し、のれんを安定的に引き継げるよう店を初めて法人化。創業以来初の 女将おかみ となり、8月4日に店を再開すると、800年の歴史がある老舗料亭などからお祝いの花が届き、復活を祝ってくれた。

 再開後は、熟練職人の土倉金三さん(76)も工房に戻ってきた。「金ちゃん」と呼ばれ、親子2代で老舗の味を守ってきた番頭だ。

 「祇園豆平糖」などの上品でコクのある味を出すためには、火加減の調整が命。絶妙なタイミングを知り尽くす金ちゃんの技を受け継ごうと、弟の路久さん(38)も弟子入りし、週末には妹家族も加わって親族総出で修業に励む。

 もっと店を知ってもらおうと、冷やしあめを使ったソーダやハイボールのテイクアウト販売を始め、SNSでも商品の写真や工房の様子を発信している。ドリンクを片手に「写真を見て一度来てみたかったんです」と話す客に、菓子のこだわりを伝える時間が何よりの喜びだ。

 「伝統を守り、祇園の街に恥じない店にしたい」。200年以上の歴史をつないでくれた先代たちへの感謝と決意を胸に、今日もお客さんに声をかける。(森谷達也)

 ◆いのうえ・まゆみ 1979年、京都市生まれ。大学卒業後、約20年間勤めた服飾関連の専門商社を退職し、店の女将に転身。X(旧ツイッター)では京都の天気や祭りなどを積極的に発信し、「京都観光に役立ててもらい、せっかくならお店にも寄ってほしい」と語る。

京都の最新ニュースと話題
スクラップ機能は読者会員限定です
(記事を保存)

使い方
「地域」の最新記事一覧
注目ニュースランキングをみる
記事に関する報告
4705421 0 きょう・人・十色 2023/11/04 05:00:00 2023/11/04 05:00:00 /media/2023/11/20231103-OYTAI50007-T.jpg?type=thumbnail
注目コンテンツ

注目ニュースランキング

主要ニュース

おすすめ特集

読売新聞購読申し込みバナー

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)