アートな風呂並ぶ信楽焼工房・自然食カフェ、山里の廃校の円形校舎が癒やしの空間に…山形・大石田町
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若い頃は旅行に行くと、観光名所を一つも見逃すまいとミツバチのように駆け回っていた。年齢を重ねると、日常を離れ、のんびりゆったりする時間と空間が旅の
そんな非日常の時間と空間を演出する粋なスポットが、山形県北部の大石田町にある。山里の廃校にある信楽焼の大型工房「
田んぼの上に天文台のような建物
第一の見どころは、独特の美しさがある旧大石田町立次年子小学校の校舎だ。雪が深い山形でも有数の豪雪地帯で、田んぼの上の小高い丘、森の中にたたずむ3階建ての校舎は、まるで天文台のような円形をしている。
1階と2階は、かつて職員室や教室が外壁側にぐるりと配置されていた。扇形の教室は前と後ろの黒板が平行にならず、机をどうやって並べていたのか不思議に思う。最上階の3階は、驚いたことに講堂兼体育館だった。中央に支柱がなく、天井から14本の鉄骨が放射状に伸びて外壁の柱を支えている。今でも地元のイベントなどに使われているという。
解体寸前で借り受け大型工房に
次年子小は2005年に廃校になった。解体寸前の11年、校舎を町から借り受けて県外から移住し、次年子窯を築造したのが信楽焼の伝統工芸士、高橋
高橋さんが力を入れるのが、陶器のお風呂だ。1階の工房には、制作中の浴槽がごろごろ並ぶ。旧職員室には大型陶器を焼き上げる特注品の窯がある。お風呂は高橋さん一人の手びねりで仕上げ、完成まで早くてもひと月はかかるという。
ゾウとカエルの神様のような顔が付いたお風呂が、ひときわ目を引く。東洋美術のような造形でもあり、歯車などの装飾はスチームパンク風でもあり、それなのに全体の調和があって落ち着いている。カエルの頭の脇には風呂たきのボタンもあり、実際に使える浴槽でもある。
創作支える豊富な土と水
東京出身の高橋さんは、陶芸を学びつつ仕事ができる滋賀県の会社に入った。花器などを作りながら仕事後も仲間とアート作品も作って腕を磨く。01年大阪トリエンナーレでは約4メートルの大作美術品「箱舟」を出品、特別賞を受賞するなど、新鋭の陶芸作家として活躍した。
03年、それまで不可能とされていた大型陶器の浴槽を、土や素材の工夫などで作る技術に出会い、のめり込む。独立して大型工房を持てる場所を探し、土と水が豊富で創作に打ち込める環境が整った、次年子小の校舎にたどり着いた。
高橋さんは浴槽作りについて「人が入る焼き物は他にない。日本人は風呂好きなので、ずっとやっていけると思った」と話す。浴槽が美術品になると、別のデザイナーが浴槽の良さを引き出す浴室を考え出す。その連携で生まれたお風呂が一つのアート空間になり、その中で人が癒やされるのが面白いという。
高橋さんは電気も水道もなかった荒れた学校を、少しずつ改修した。地域の人は卒業した学校に愛着があり、高橋さんの活動を応援してくれた。気づけば移住して10年が過ぎ、工房も軌道に乗りつつある。体力勝負の創作活動でもあり、「そろそろ後継者が欲しいですね」と話す。
昭和の学校の面影とともに味わう山の滋味
大石田町は、そば、
サトウエミコさんが作る「やさいのさら」プレートがテーブルにのると、多彩な彩りに目を奪われてしまった。玄米ご飯と、根菜たっぷりの汁物もつく。1回の食事で、何種類の野菜が食べられるのだろう。
味付けは薄めだが、ハーブやスパイスがしっかりと補い、カボチャの甘みなど素材の味を巧みに引き出している。食器にも木や次年子窯の陶器などが使われ、一つ一つを手に取るのも楽しい。おなかいっぱいに野山の恵みを取り込んだ後、窓の外に広がる里山の風景を見ていると、体から日頃の疲れが消えていくような癒やしの効果を感じた。
山形の山は、まもなく紅葉の季節を迎える。1か所で三つの魅力がある次年子の里で、緩やかな時間の流れを満喫してはいかが。