信頼の指標 ネットに…オリジネーター・プロファイル(OP)憲章制定
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27日に制定された「オリジネーター・プロファイル(OP)憲章」は、OPに関わる事業者らの規範を明文化したものだ。フェイクニュースや過激な情報があふれるインターネット空間で、発信者の情報を示すOPは、信頼できる情報を消費者が見分ける「指標」の役割を果たす。期待の新技術は、実用化に向けて着々と準備が進められている。
人権尊重・ファクト重視…トラブル 倫理委が調査
憲章は「OP技術研究組合」理事長を務める村井純・慶応大教授の諮問機関として昨年11月に設置された起草委員会が、半年近くに及ぶ議論を重ねて取りまとめた。
委員会は、情報空間のあり方や情報政策に詳しい有識者8人で構成し、慶応大の山本龍彦教授らが共同座長を務めた。
前文では、過激な情報で人々の関心を引きつけ、広告収入を得る「アテンション・エコノミー」の広がりや、生成AI(人工知能)の普及を背景に、真偽不明の情報が氾濫する情報空間への危機感を示し、OPが必要とされる理由を説明した。
第1条は、OPの定義について「情報または情報発信主体の真正性および信頼性の判断指標」と明示。真正性は、OPを使用する新聞社やテレビ局などの情報発信者が「なりすまし」行為を受けていないこと、信頼性は、発信者が民主主義社会に対して責任ある発信主体として自ら策定した情報発信ポリシーに従っていることをいうと定義した。
第2条は、基本的人権の尊重や真実性(ファクト)の重視など、OPを使う情報発信者が各社で定めるポリシーの基礎とすべき事項を明確化した。特に、OPを使うマスメディアについては、情報の発信と流通に極めて大きな社会的責任があることを指摘した。
第3条では、OPを使用する情報発信者に対する審査基準を示した。審査の際には、第2条で定める情報発信ポリシーの有無や、業種や業態に応じて適切なガバナンスが構築されているかなどを考慮するとした。
第4条は、OPの信頼を維持するために組合が
第5条では、トラブルが起きたときの対応を定めた。OPを使う情報発信者が、偽・誤情報を発信するなど問題行為を繰り返したときは、倫理委員会が必要な調査を行い、OPの使用制限などの措置を取るよう組合理事長に求めることができる。
第6条は、社会環境の変化やデジタル技術の進展の速さを念頭に、憲章を柔軟に見直せるように、あらかじめ手続きを定めた。
実用化25年目標
2022年12月に設立されたOP技術研究組合は、新聞・メディア、アドテクノロジー(広告技術)会社など11法人によってスタートした。23年7月からはOPの実証実験を開始し、外部と隔離したネット環境でプログラムが正常に動くかを確かめた。
組合は、OPの国際標準化を目指しており、今年1月、ウェブ規格の国際的な標準化団体「W3C(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)」の正式会員となった。OPの実用化は25年を目指している。
消費者の判断 手助け…OP憲章起草委員会共同座長 慶応大教授 山本龍彦氏
日本では、仕組みが目的や理念から離れて一人歩きしていくことが多い。この憲章は、OPの運用がそうした状況に陥らないようにとの思いを込めて作成した。議論は半年間に及び、OPに対する信頼感につながるような、しっかりとした憲章にしたいとの思いで取り組んだ。
過激な情報で関心を集める「アテンション・エコノミー」の広がりや生成AIの普及に伴い、偽・誤情報が飛び交うようになった現在の情報空間について説明した前文では、「絶望の靴音が聞こえる
一方で、インターネットにはまだ希望があり、自由の実現や民主主義の発展に資するという期待感も強調したつもりだ。現在、我々は分岐点に立っている。一歩間違えると、民主主義の衰退にもつながるだろう。我々はここで踏みとどまり、インターネットを希望に満ちたものとして将来世代に引き継ぐ必要がある。そのためのツールの一つが、OPになると考えている。
しばしば誤解されるが、OPは、情報の正しさを100%保証する「基準」ではない。OPは、情報や発信主体の真正性や信頼性を消費者が推測するための「目安」にすぎない。しかし、「なりすまし」など、真実性を担保できない情報がここまで横行した現在、目安にも重要な意味があるだろう。消費者は、情報に関する一つの判断指標を得ることで、主体的で自律的な情報の摂取が可能になる。これは知る権利の実現にもつながる。
目安といえども、運用を誤れば情報発信者の
OPの活用・普及とのバランスを図りつつ、現時点で最善と考えるOPの運用方針を規定したが、今後の社会環境の変化やデジタル技術の進展に照らしてよりよいガバナンスのあり方が見つかるかもしれない。こうした見直しが適切かつ公正に行われるための規定も置いた。
偽・誤情報対策はいかに削除するかという話になりがちだ。だが、OPの良いところは、怪しい情報を削除するのではなく、消費者に判断指標を提供することで、情報摂取や評価を最終的に消費者の判断に委ねるところだ。リテラシー教育などと組み合わせれば、現在の情報空間の課題を克服する強力なツールになるだろう。
OP憲章の全文
前文
インターネットの普及は、情報空間を大きく変容させた。いまやマスメディア以外の個人、団体、企業も自由に情報発信を行い、公共的事項に参与できるようになった。我々は、このことが、個人の自律性を高め、民主主義をより発展させるものと強く期待する。
しかし、我々がその方向性を見誤るならば、この期待は絶望へと転化する。我々がいま立っているのは、その分岐点である。
インターネットの普及によりその民主化が叫ばれた情報空間には、報道機関や官公庁等の組織になりすまし、人々を誤導すべく情報発信する者、選挙や災害時に偽・誤情報を無責任に発信し、民主主義や我々の生命を危険にさらす者が多く出現し、その影響力を日増しに強めている。
また、人々の関心・注目を収入源とする「アテンション・エコノミー」と呼ばれる経済モデルのもと、閲覧数・表示数といった指標が過度に重視され、その内容の真実性に責任をもたずに作られた情報が多く流通・拡散し、報道機関等が伝える情報のすぐ隣に何食わぬ顔で鎮座している。
さらに近年では、生成AIの開発・普及が進み、真実との区別が困難な情報が容易に生成され、大量に拡散される傾向もみられる。
こうして我々は、情報の真正性や信頼性を合理的に認知、判断できないまま、他律的・受動的に情報を摂取している状況に置かれているといえる。情報の真正性等に対するこのような認知の歪みは、我々の知る権利の主体的行使を妨げるだけでなく、個人の生命、身体、財産、さらには民主主義を危険にさらすことにもなるだろう。
このような情報空間の曲がり角において、インターネットの可能性に対する期待をなお維持し、健全な情報空間を将来世代に引き継ぐためには、具体的な行動が不可欠である。我々が自由と民主主義を希求する以上、絶望の靴音が聞こえる混沌たる情報空間を前に、傍観者でいることは決して許されない。
無論、インターネットへの期待を維持するための行動にはさまざまなものがありうるが、少なくとも、供給される情報が、主張される発信主体から実際に発信されたもので、内容の改ざん等がされていないこと(真正性)を我々が認知でき、かつ、情報の信頼性を合理的に判断しうる指標を普及させることが必要である。「Originator Profile」(オリジネーター・プロファイル、以下OP)は、このような目的のもと開発された。
すなわち、OPは、我々が情報の真正性および信頼性を合理的に推測・判断しうるための指標となることで、自律的で主体的な情報選択ないし摂取を可能とし、もって知る権利の具体的実現に寄与することを目的としている。
また、OPが、プラットフォーム事業者や広告主・広告事業者等にとって情報を評価する際の客観的指標として機能することで、情報空間の健全化に向けた各事業者の取り組みが促進されることも期待される。
OPが、このような理念のもとに適切に運用されることを保証するものとして、ここに本憲章を定める。OPにかかわるすべての者が本憲章に定められた内容を遵守し、それによって、個人の自律が尊重され、民主主義がより豊かに発展するインターネットの未来が実現されることを期待する。
第1条(OPの基本理念)
OPは、その普及により、情報または情報発信主体の真正性および信頼性の判断指標となることで、情報流通にかかわる事業者等の責任ある行動を促し、情報受領者の知る権利の実現に貢献する。また、これをもって、健全な情報空間の構築を支援し、民主主義の健全な発展、個人の生命・健康の維持、身体・財産の保護に寄与することを目的とする。
2 本憲章における「真正性」とは、ある識別名称を名乗っている情報発信主体が、確かに当該名称を持つ実在する主体であり、かつその発信内容に改ざん等がないことをいう。
3 本憲章における「信頼性」とは、当該情報発信主体が、民主主義社会に対して責任ある発信主体として、第2条に掲げる基本姿勢を踏まえて自らが策定した情報発信ポリシーに従っていること、および当該ポリシーを実現するに足るガバナンスを備えていることをいう。
第2条(OPを使う情報発信主体の基本姿勢)
OPを使う情報発信主体は、以下の各号に掲げる事項を踏まえて、情報発信のためのポリシーを策定し、公表しなければならない。
1号 基本的人権を尊重すること。
2号 民主主義を基盤とする公正な社会に貢献すること。
3号 真実性(ファクト)を重視し、誤情報を発信したことが明らかになった場合には速やかに訂正すること。
4号 消費者を操作・誤導等しないように、誠実な情報発信を行うこと。
5号 生成AIの利用に際しては透明性を確保すること。
2 OPを使う情報発信主体は、自らの業種・業態の実情に応じて、前項の情報発信ポリシーの実効性を確保するために必要なガバナンスの整備に努めなければならない。
3 OPを使うマスメディアは、情報の発信と流通に極めて大きな社会的責任を有することを踏まえたガバナンスを整備しなければならない。
第3条(OP運用の基本的考え方)
「OP技術研究組合」は、OPを使う情報発信主体に対するID付与に際して、以下の各号に掲げる事項を考慮し、本憲章が遵守されることが合理的に示されているかどうかを審査しなければならない。
1号 第2条にいう情報発信ポリシーの有無。
2号 業種・業態の実情に応じたガバナンスの有無。
3号 所属する業界団体等の性質(認証を受けている場合は、その認証の性質)。または適格性が認められた業界団体等に所属する者と同程度に、第1条にいう基本理念に沿った情報発信主体であるかどうか。
第4条(OP技術研究組合の基本姿勢)
OP技術研究組合(第5条にいう倫理委員会、第6条にいう憲章委員会を含む)は、OPへの信頼を維持するため、以下の各号に掲げる事項を遵守しなければならない。
1号【表現の自由の保障】 情報発信主体の表現の自由を不当に侵害しないこと。特に、政治的信条によって情報発信主体を差別的に取り扱わないこと。
2号【知る権利の保障】 情報受領者の認知過程の自由を保護し、情報受領者が自律的かつ主体的に情報を選択または摂取する機会を確保すること。
3号【公正性および独立性の確保】 政府および特定団体からの独立性を維持し、運用または手続上の公正性を確保すること。特に、組合員等が市場における競争制限的な、あるいは、競争阻害的な行為を目的にOPを運用しないこと。
4号【透明性および説明責任】 OPの運用に関して透明性を確保し、説明責任を果たすこと。
第5条(倫理委員会)
倫理委員会は、OPが高い倫理性をもって運用されることを確保するため、OP技術研究組合の理事長により設置される。倫理委員会の委員は、人格が高潔であって、デジタル社会のあり方に一定の識見を有する法律家や技術者等のなかから、理事長が委嘱する。
2 倫理委員会は、OPを使った情報発信について問題があるなどとして、一般市民から通報があった場合、団体内部から通報があった場合、報道機関等により指摘があった場合等に、必要な調査を行うことができる。
3 倫理委員会は、必要な調査を行ったうえで、当該情報発信主体の情報発信ポリシーが遵守されているかについて審査を行い、その状況に照らし、当該情報発信主体に対して以下の各号に掲げる措置を取るよう、理事長に求めることができる。
1号【見解】 倫理委員会の意見として、その尊重を求めるもの。
2号【勧告】 具体的な改善をより強く求めるもの。
3号【ID停止または更新拒否】 前号の勧告に従わない場合にOPの使用等を制限するもの。
第6条(憲章の見直し)
本憲章は、施行後、社会環境の変化やデジタル技術の進展に照らし、必要に応じて柔軟に見直されなければならない。
2 OP技術研究組合の理事長は、本憲章の見直しが必要とされる場合、人格が高潔であって、デジタル社会のあり方に一定の識見を有する法律家や技術者等のなかから委員を指名したうえで、憲章委員会を招集する。憲章委員会は、憲章の改正案を策定し、理事長に提出する。理事長は、改正案を理事会に諮り、憲章の改正について承認を得る。
参加41法人に
OP技術研究組合は27日、河北新報社、SEARCHLIGHT、静岡新聞社、新潟日報社の4法人が新たに加入したと発表した。組合の参加団体はこれで41法人となった。
OP技術研究組合の組合員(50音順)
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