天安門事件から35年…当局が禁句化した「64」「5月35日」などの隠語も風化の懸念
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「64」「戦車男」「5月35日」――。何の脈絡もない言葉の羅列のようだが、いずれも1989年6月4日に中国共産党政権が民主化運動を弾圧した天安門事件を指す隠語である。64は事件発生日。戦車男は大勢の犠牲者が出た直後に戦車の隊列に1人で立ちふさがった男性を意味する。最後の一つは「5月31日+4日=6月4日」となる。
これらの隠語はネット上で当局の検閲を避けるため次々に生み出された。だがある程度、認知されるとそれも禁句となる。ネット検索で規制対象の言葉は数万語に達する。
たとえば2023年秋、中国・杭州のアジア競技大会。ゼッケン6番と4番の中国人の女性選手同士が健闘をたたえて抱き合い、図らずも数字の「64」のように見えた写真も削除された。2019年製作の天安門事件が題材の演劇「5月35日」は香港でも上演禁止となった。
そんな厳しい検閲の網をすり抜けたかのような2冊が中国で翻訳・出版されている。「64(ロクヨン)」と「五月三十五日」。前者は横山秀夫氏の警察小説で、昭和天皇の崩御に伴い7日間で終わった昭和64年(1989年)に起きた架空の少女誘拐事件を題材にした。天安門事件に続き、ベルリンの壁崩壊や米ソ首脳の冷戦終結宣言――。昭和から平成に移った89年は、とりわけ中国など旧東側陣営にも激変の年だった。
もう1冊は「エーミールと探偵たち」で知られるドイツのエーリヒ・ケストナーの童話。少年が空想の国々を旅して奇抜な体験をする筋書きで、実在しない日付となるタイトルの「五月三十五日」は「何が起きてもおかしくない日」との意味だ。独ナチス政権の迫害で発禁処分を受けた人らしく、強権への風刺や警鐘が隠されたテーマだという。
これに対し、64は中国では「何も起きてはいけない日」となってきた。
5月4日、64を1か月後に控えた天安門広場。「革命の父」と呼ばれる孫文の肖像画が掲げられ、群衆であふれた。メーデー連休の恒例の風景である。近くにいた観光客ら5人にケストナーの「五月三十五日」を見せたが隠語としての意味を答えた人はいなかった。
「警察や兵士が学生たちの平和的な集会に乱入した」。同じ頃、中国国営中央テレビは米国各地の大学で吹き荒れるイスラエルへの抗議運動を報じた。警官隊が荒々しく殴打する映像も繰り返し流され、米国政府の強権への批判的トーンが
2022年秋、中国政府はゼロコロナ政策に抗議した若者らによる「白紙運動」を外国記者が現場にいた北京では強引に鎮圧しなかった。後日、監視カメラの映像などで特定した主導者らを拘束した。米国より一枚も二枚も