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国内の研究者をかたった偽の学術論文が、海外の学術誌サイトに掲載されていることがわかった。専門家の分析では、論文は生成AI(人工知能)で
茨城県つくば市の国立研究開発法人「森林総合研究所」の藤井
藤井氏は土壌の研究を専門とし、2019年に著書が河合隼雄学芸賞に選ばれたことがある。偽論文は英文で、内容は藤井氏が過去に研究したことがあるテーマだったものの、論文に書かれた所属先は東京大や名古屋大の実在しない組織だったという。
藤井氏は今月中旬、サイト側にメールで論文の削除を求めたが、返事はなかった。しかし15日になって、論文2本のうち1本の著者名が、所属先はそのままで別の日本人名に変わった。所属先とされる大学の教員一覧にその日本人名はなく、藤井氏に連絡もないという。
このサイトは、海外の研究者がハゲタカジャーナルの可能性があるとしてネット上でリストを公開している約1300の学術誌サイトの一つ。多数の論文が掲載され、有料で投稿を呼びかけている。藤井氏以外の日本人とみられる研究者の名前や国内外の研究機関に所属しているとする著者の論文もあった。
藤井氏名義の偽論文が掲載された経緯は不明だが、実績のある研究者が論文を投稿する良質な学術誌と装うことで、別の研究者に新規投稿を促し、掲載料を集めようとした可能性がある。藤井氏は「論文が書かれている内容の事実関係に間違いはない。とはいえ、新規性もなく、私が書いたものと思われるのは心外だ。科学論文の信用性を傷つける許せない行為だ」と語った。
藤井氏をかたる論文2本について、読売新聞が国立情報学研究所の越前功教授(情報セキュリティー)に分析を依頼したところ、いずれも「生成AIで作ったとみられる」と判定された。
越前氏の研究グループは、特定の英語論文が生成AIで作られたかどうか判定するシステムを開発した。システムは、人間の研究者が執筆した論文と生成AIで作られた論文をAIに大量に学習させ、人間には気づけない両者の文章の特徴を見抜く仕組みだという。
越前氏は「問題の論文には、引用がないなど、構成には違和感を覚える。ただ、一文一文を見るとそれほど不自然さはない。この分野に詳しくない学生などが、こうした文章を本物の論文と勘違いして受け止めてしまう懸念がある」と話した。
学術の世界「汚染の危機」
研究倫理に詳しい一般社団法人「科学・政策と社会研究室」の榎木英介代表理事の話「実在の研究者をかたった偽論文の被害は海外で報告されており、日本人研究者が気づいていないだけで、もっと被害が広がっている可能性がある。生成AIの登場で論文の捏造が容易になっており、学術の世界が汚染される危機感が高まっている」