世論をかく乱する認知戦、インターネット上で繰り広げられる「第6の戦場」にどう向き合うか
完了しました
新年度が始まり、子どもが小学校から大量の配布物を持ち帰ってくる。仕分けていると、「情報モラル」というリーフレットが目に留まった。
「信頼できない情報がある」「情報や記録は拡散する」――インターネット上の情報がはらむ危険性を指摘している。生まれたときからネットやSNSが当然にある「デジタルネイティブ」の子どもたちは、小さいうちからネットリテラシーを学ぶ必要があるのだろう。
国際
認知戦とは、偽情報や戦略的な情報発信などを用いて他国の世論や意思決定に影響を及ぼし、自国に有利な安全保障環境の構築を目指す取り組みだ。伝統的な陸海空、新領域の宇宙・サイバーに続く、「第6の戦場」とも呼ばれる。
一度拡散されれば半永久的に残る
「国際社会からの同情と関心に感謝します」
4月初め、中国の国連代表部のホームページ(HP)に台湾地震に関する
1999年に起きた台湾大地震の際にも、当時の
ネットの世界には「デジタルタトゥー」という言葉がある。ネット上にいったん書き込まれた情報は、一度拡散されれば、入れ墨(タトゥー)のように半永久的に残されることを意味する。
政府は特に、英語での情報拡散に神経をとがらせている。英語で偽情報や日本をおとしめる発言などが拡散されると、国益を損ねる「デジタルタトゥー」となり、既成事実化して世界規模で流布される可能性があるためだ。
ソロモン諸島の韓国への対応、日本にも衝撃が走る
昨年6月、太平洋
この会議で韓国政府は、韓国の外交構想である「自由、平和、繁栄のインド太平洋戦略」を提示し、首脳宣言を採択した。これについて、ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は、PIFが独自にまとめた「2050年ブルー・パシフィック戦略」と競合する内容が含まれ、同戦略の意義が損なわれると主張。この見解を政府HPに掲載した。さらに現地メディアは、「ソロモン諸島は主権国家だ。いかなる地政学にもくみしない」「韓国のインド太平洋戦略に足並みをそろえることは、決して我々の意図ではない」とのソガバレ氏の記者会見での発言も報道し、ソロモン諸島が韓国のインド太平洋戦略に反発していることは英語でネット上に拡散された。
南太平洋は海上交通路(シーレーン)の要衝で、米中対立の最前線だ。中国にとって同地域は、台湾有事の際に米海軍の接近を阻止する防衛ライン「第2列島線」上に位置し、米国にとっても中国の影響拡大を阻止する意味で重要な意味を持つ。近年は中国の影響力が増大しており、中でもソロモン諸島の接近ぶりは突出している。2019年には台湾と断交し、中国と国交を樹立。22年には中国と安全保障協定を締結し、中国の軍事拠点化も懸念される。ソガバレ氏が韓国のインド太平洋戦略をやゆする背後に中国の存在があるのは明らかで、日本政府関係者は「日本が掲げるFOIP(自由で開かれたインド太平洋)で同じ
周到な準備を進めた日本、回避された「デジタルタトゥー」
FOIPは16年から日本が提唱する外交構想だ。インド太平洋でルールに基づく国際秩序を構築し、法の支配、航行の自由、自由貿易といった原則を定着させることを目的とする。この構想に基づいて日米豪印の安全保障枠組み「
上川外相が今年2月にフィジーで太平洋島嶼国と行った「太平洋・島サミット」閣僚会合に向けては、周到に準備が進められた。その結果、中国を念頭に「一方的な現状変更の試みに強く反対する」などと盛り込んだ議長総括を発表し、「捕れすぎるほどの成果」(外務省関係者)となった。背景には、議長総括に日本の「FOIP」の文言は入れず、「2050年ブルー・パシフィック戦略と整合性を保つ形での日本の協力」を繰り返し強調するなどの配慮があり、不本意な「デジタルタトゥー」が刻まれる事態は回避された。
ネットは使い方次第で加害者にも被害者にもなる
「太平洋・島サミット」の本丸は、7月に岸田首相が主催する首脳会合だ。外務省関係者は「7月に向け、中国側が巻き返しを図ってくる可能性は大いにある」として、首脳会合の成果文書が閣僚会合の議長総括から後退しないよう警戒している。実際、閣僚会合にはソロモン諸島は外相を送り込んでおらず、首脳会合でのソガバレ氏の言動が注目される。
世論をかく乱する認知戦は、中国のほかロシアも本格的に導入し、ウクライナ侵略でも偽情報の流布などで混乱を引き起こしている。AI(人工知能)の活用で、より深刻な情報操作が行われる懸念も強まっている。
冒頭で紹介した「情報モラル」リーフレットには、「インターネットは使い方次第で加害者にも被害者にもなる」とある。いまや、国家さえも加害者や被害者になっているのがネット上の現実だ。日本政府も認知戦への対応能力強化を掲げているが、「非・デジタルネイティブ」世代こそ、さらなる個人レベルでのネットリテラシー向上が求められていると、リーフレットを読みながら意を強くした。