『在野と独学の近代 ダーウィン、マルクスから南方熊楠、牧野富太郎まで』志村真幸著
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日英の独学者にみる「学問」
評・岡美穂子(歴史学者・東京大准教授)
近年SNSで誰もが情報を発信できる時代になり、「学問」を取り巻く状況も大きく変化している。そこでは専門分野の研究者ではなくとも、紛糾する話題について深い知識と洞察力でコメントを発信する人が散見される。その一方で「権威」に対する嫌悪感は現実よりも露骨で共感を得やすいようで、大学勤めの研究者もしばしば攻撃対象となる。しかし、そもそも大学に雇用される研究者が、そうではない人よりも権威を持つという暗黙の了解は、いつ頃どのように形成されたのであろうか。本書はその疑問を解くカギになりそうである。
本書では19世紀後半から20世紀前半にかけての日本とイギリスにおける学問世界の在り方の違いがフレームとなる。これらを
熊楠は約八年間イギリスで研究生活を送ったが、大学に留学したわけではなく、主に大英博物館の図書室で海外の古典から最新研究の書誌に没頭し、博物館で知識を得た。日本に帰国後も大学には職を得ていない。当時のイギリスでは大学は専門的な研究をおこなう場所とは見なされておらず、著名なダーウィンもまた大学には所属していなかった。それに代わって学問をめぐるコミュニケーションの場であり、「権威」を保証していたのは、「アカデミー」や「ソサエティ」と呼ばれる愛好家の協会であった。日本では明治維新以降、主に政府が確立した「帝国大学」の内側で学問が発達していったために、