青森県六ヶ所村の巨大施設、核燃料サイクルの現場…貯蔵プールはすでに満杯

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 原子力発電所の60年超運転が「GX脱炭素電源法」で可能になり、今後は核燃料サイクルがますます重要になってくる。青森県六ヶ所村にある日本原燃の核燃料サイクル施設を訪ね、2024年度早期の完成を目指す現場を取材した。(編集委員 森太)

 ※ GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法  電力の安定供給と脱炭素化の両立を図るため、2011年の東京電力福島第一原発事故後に定めた運転期間の上限「原則40年、最長60年」について、安全審査で停止した期間などを期間から除外することで、事実上、60年超の運転が可能になった。

青森県六ヶ所村にある日本原燃の核燃料サイクル施設
青森県六ヶ所村にある日本原燃の核燃料サイクル施設

日平均8000人が働く巨大施設

青森県六ヶ所村
青森県六ヶ所村

 最近、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を巡り、二つのニュースが相次いだ。一つは、山口県 上関(かみのせき) 町が、一時的に保管する中間貯蔵施設の建設に向けた調査の受け入れを表明したこと。もう一つは、長崎県対馬市の市議会特別委員会が、第1段階となる文献調査受け入れを求める請願を採択したことだ。これらはいずれも、核燃料サイクルの進展と深くかかわる。

 GX脱炭素電源法が国会で成立した前日の5月30日、青森県八戸市から日本原燃幹部らと車で1時間余り、北へ向かった。信号はほとんどない。下北半島の太平洋側にある六ヶ所村に入り、しばらくすると、巨大な建造物群が現れた。日本原燃の核燃料サイクル施設だ。日本原燃幹部は「巨大な化学工場と同じです」。約750万平方メートルの広大な敷地では、日本原燃と協力企業の社員らが1日平均約8000人働いているという。朝夕は、周辺の道路で渋滞が発生するそうだ。

 日本原燃は、核燃料サイクルを支える重要な五つの事業を担う。敷地内には、それぞれの事業に応じて施設が並んでいる。中核は、使用済み核燃料から再利用できるプルトニウムとウランを取り出す再処理工場と、MOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料工場だ。これらはまだ完成していない。残り3事業の高レベル放射性廃棄物の一時保管、低レベル放射性廃棄物の最終処分、ウラン濃縮は、すでに操業している。

計画延期繰り返された核燃料サイクルの中核施設

 原発は稼働すれば、必ず「核のごみ」が出る。核燃料サイクルは、原発で使い終わった使用済み核燃料を再処理し、まだ使える燃料を取り出して再利用することで「核のごみ」を減らすことができる。計画延期が繰り返されてきた二つの中核施設は現在、再処理工場が「2024年度上期のできるだけ早期」、MOX燃料工場は「2024年度上期」の完成に向けて工事などが進んでいる。

 「全国の原発から出た使用済み核燃料は、ある程度冷やされてからここに運ばれてきます」。再処理工場内の廊下で、巨大なプールを窓越しに見下ろしながら、案内役の担当者が説明する。

各地の原発から運ばれてきた使用済み核燃料の受け入れ・貯蔵プール。すでに満杯に近い
各地の原発から運ばれてきた使用済み核燃料の受け入れ・貯蔵プール。すでに満杯に近い

 「プールの横を歩いたり、水面に浮いたりしている状態では 被曝(ひばく) しませんが、水中に沈んでいくと危険です。このため作業は必ず2人で行います」。青く透明な水を蓄えた深いプールは、周囲の柱やライトを静かな水面に映している。使用済み核燃料が保管されているようには見えないが、すでに満杯に近い状態だ。

再処理工場は「アクティブ試験」中

 使用済み核燃料から再利用できるプルトニウムとウランを化学処理によって抽出する再処理工場は、全体の99%まで工事が進んだ。現在は「アクティブ試験」が行われており、中央制御室の様子を映し出したモニターでは、本番同様に運転員らが働いていた。

 再処理の工程は、大きく6段階あり、貯蔵プールでの燃料受け入れは、最初の段階にあたる。十分に冷やされ、放射能の量が大幅に減った後、燃料の入った金属管ごと数センチにせん断。硝酸で溶かしながらまずは金属片を分離、次にプルトニウムとウランを分離し、粉末状のMOXとウラン酸化物にする。

 担当者は「核不拡散の観点からプルトニウムの粉末は単独貯蔵できないため、MOXにはウラン粉末をあえて半分混ぜて保管しています」と話した。プルトニウムの分離やウラン濃縮は、核兵器製造に転用されかねない技術だ。日本は、「日米原子力協定」によってプルトニウムの平和利用が認められているが、施設内には国際原子力機関(IAEA)の査察官が常駐し、カメラで監視している。

再処理の工程を説明する展示
再処理の工程を説明する展示

 通常の原発では毎年約20トンの使用済み核燃料が出るが、再処理工場では、毎年、原発約40基分の800トンを処理する能力があるという。再処理工場が操業し、使用済み核燃料の処理が進めば、貯蔵プールに空きができる。それにより各地の原発稼働により発生する使用済み核燃料を、再処理工場に搬出できるようになる。

建設中のMOX燃料工場、地下3階地上2階建て

2024年度上期の完成に向けて工事が進むMOX燃料工場
2024年度上期の完成に向けて工事が進むMOX燃料工場

 快晴の空の下、大勢の作業員が汗を流し、頭上では資材をつり下げた巨大クレーンのアームが動いていた。MOX燃料工場は、取材した現場で最も活気があった。担当者は「85メートル四方の地下3階、地上2階の建物を建設中です。現在は地下2階の天井部分をつくっています」と説明した。

 再処理工場とMOX燃料工場が完成していないため、電力会社はこれまで、使用済み核燃料の再処理とMOX燃料の製造を海外に委託してきた。このMOX燃料工場が完成すれば、ペレット状のMOX燃料の国内製造が可能になる。

 工場がフル稼働すれば、国内で毎年、原発十数基分の燃料を加工できるようになる。MOX燃料を使用する「プルサーマル発電」が可能な原発は、現在、再稼働した原発の中で4基あり、電力会社は2030年度までに少なくとも12基のプルサーマル実施を目指すことにしている。

高レベル廃棄物の「ガラス固化体」、ステンレス容器で保管

 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターでは、緑色の床にオレンジ色の円形の蓋が整然と並んでいた。蓋の下には、使用済み核燃料から分離され、再利用できない核分裂生成物を取り出した高レベル放射性廃棄物の「ガラス固化体」が垂直に連なって保管されている。

高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの内部。オレンジ色の円形の蓋の下にガラス固化体が保管されている
高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの内部。オレンジ色の円形の蓋の下にガラス固化体が保管されている

 高レベル放射性廃液とガラスを溶かして固めたガラス固化体は、キャニスターと呼ばれるステンレス容器に入っている。熱を発するため常時、外の空気で冷やしている。貯蔵容量2880本に対し、これまでに英仏に送った使用済み核燃料を処理して返還された1830本を受け入れた。

 問題は、最終処分場が決まっていないことだ。青森県との「約束」で、最長50年で県外に搬出することになっている。最初の期限は2045年。それまでに最終処分場を稼働させなければならない。北海道 寿都(すっつ) 町、 神恵内(かもえない) 村が選定に向けた文献調査に入ったものの、決定までの道のりは長く、先行きは見通せない。

 一方、全国の原発から集められた低レベル放射性廃棄物については、1、2号埋設センターに続いて、3号の工事が行われていた。周囲ではウグイスが鳴き、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターとは対照的にのどかな感じさえした。操業開始から約30年で、200リットルの黄色いドラム缶約35万本を受け入れ、最終規模300万本の約1割が埋まった。満杯になれば、覆土して継続的に監視する状態となる。

原子力政策の柱の核燃料サイクル施設

 核燃料サイクル施設は、標高約55メートル、海岸から約5キロに位置する。津波の心配はないが、原子力規制委員会の新規制基準により、最大風速100メートル毎秒の竜巻を想定し、飛来物から冷却装置を守るために鋼鉄製の防護ネットを設置するなど、自然災害や火災の対策が行われた。

竜巻による飛来物を想定し、鋼鉄製の防護ネットで覆われた冷却装置
竜巻による飛来物を想定し、鋼鉄製の防護ネットで覆われた冷却装置

 日本原燃によると、使用済み核燃料の再利用により、ウラン資源が節約され、高レベル放射性廃棄物の体積は直接処分に比べて4分の1になる。また、放射能が天然ウラン並みのレベルまで減衰する時間は、約10万年から約8000年になるという。

 前身の日本原燃サービス発足から43年。六ヶ所村出身の報道第一グループリーダーの橋本 篤哉(あつや) さん(55)は、「昔は反対する住民も多かったんですが、今では理解が進み、地域と共存しています。現在、従業員の約64%は青森県出身者です」と話した。

 ウクライナ危機でエネルギーの安定供給が世界的に危ぶまれている。エネルギー資源の乏しい日本にとって、原発政策を推進する以上、それを支える両輪の一つである核燃料サイクルを進めるべきだろう。

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4474724 0 科学・IT 2023/08/24 10:59:00 2024/05/28 15:23:12 2024/05/28 15:23:12 /media/2023/08/20230821-OYT1I50101-T.jpg?type=thumbnail
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