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BS番組の配信予算問題を受け、再発防止策を検討するNHKの外部有識者による専門委員会が今月末までに意見を取りまとめる。稲葉延雄会長は、NHKの「組織風土」にまで踏み込んだ提言を期待しているが、もしそうなら、過去20年間、不祥事が起きる度に様々な再発防止策を講じてきたにもかかわらず、新たな事案が起き続ける状況を検証しないわけにはいかない。なぜNHKでは、手を変え品を変え、不適切な事例が繰り返されるのだろう?(文化部 旗本浩二)
膨大な受信料不払い招いた制作費詐取事件
「かつては個人の犯罪が中心だったが、最近は放送の本質に関わるケースが増えているように思う」。今回の配信予算問題を受け、NHKの元幹部が事態の深刻さを憂う。「組織としての劣化が背景にあるのではないかと疑ってしまう」
過去20年、NHKで発覚した不祥事の中で、放火や性犯罪などは論外として、目立つのは経費などの金絡みか番組絡みだ。金絡みの中で最大の不祥事は、2004年夏に発覚した芸能番組のチーフ・プロデューサー(当時)による制作費詐取事件だ。チーフ・プロデューサーは、番組企画会社社長(同)らと共謀。社長らが放送作家として「紅白歌合戦」などの番組作りに関わったように装い、NHKから番組構成委嘱料として計約6230万円をだまし取ったとして、実刑判決を受けた。
これに端を発して04年には、編成局幹部のカラ出張やソウル支局長による取材経費の不適切処理などが相次いで露呈。こうした不祥事に対するNHK側の消極的な対応も批判を招き、受信料の支払い拒否・保留が急増した。当時の海老沢勝二会長は引責辞任に追い込まれたが、不払いは一向に収まらず、ピーク時の05年11月末には128万件にまで達した。その影響などにより05年度の受信料収入は前年度より385億円減少。NHKにそっぽを向いた視聴者に職員総出で直接電話をかけて謝罪を行うなど非常事態となった。
カラ出張問題では「常軌を逸した調査」も
橋本元一新会長の下、NHKは再発防止策を打ち出した。経理システムの改革やコンプライアンス(法令順守)の徹底はもちろん、当時から指摘されていた報道、制作、営業、技術など各職種ごとの縦のつながりが強く硬直化した組織風土を変えようと、若手職員の声に経営陣が耳を傾ける集会も開いてきた。さらに06年1月に策定された3か年計画では、最高意思決定機関である経営委員会の監督機能強化や、外部人材の役員起用も盛り込まれた。
ところが同年4月、報道局チーフ・プロデューサーがカラ出張で約1700万円を着服していたことが発覚。制作費詐取事件の教訓が生かされず、またしても経理手続きが悪用された事態に橋本会長は「一から出直す覚悟で、視聴者の信頼回復に取り組む」と陳謝。ほかに同種事例がないか「全部局業務調査」として書類や伝票約3000万件を調べ上げ、日当の重複請求や出演料などの重複支払いなどをあぶり出し、関係者の処分を行った。
経費の不正請求などではないが、金にまつわる不祥事でもう1件、当時の会長を退陣に追い込んだのが、08年1月に発覚した記者ら3人によるインサイダー取引事件だ。局内の報道用端末で知った放送前の記事を基に株取引を行う手口に、公共放送の職員としての規範意識の欠如はもちろん、組織としても危機管理のあり方が問われた。弁護士らからなる第三者委員会が独自に調査を行い、勤務時間中に株取引を行った職員が少なくとも81人に上ることが判明した。
他方、本人や家族名義での株保有を認めた職員の約3分の1にあたる943人が、「プライバシーの侵害」などを理由に取引履歴に関する調査への協力を拒否し、視聴者から批判を浴びた。これに対し、第三者委は、就業時間中の株取引の禁止など直接的な再発防止策に加え、「公共放送の使命」を再認識することなどを要望した。その上で、カラ出張問題の際に行った「全部局業務調査」について言及。「労力とコストは膨大で、常軌を逸した調査。何のためかという本来の目的を見失い、調査自体が自己目的化している」と批判した。