生成AIの普及に国民の半数が「不安」…安全性確保が急務

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世論調査部 岡本裕輔

 インターネットに匹敵する革新的な技術ともいわれる生成AI。業務の効率化や人手不足の解消につながることなどが期待される一方、偽情報の 蔓延(まんえん) など様々なリスクもはらむ。読売新聞社が行った全国世論調査では、生成AIを悪用した世論誘導や犯罪への懸念が鮮明となり、生成AIを使った偽情報への法規制を求める声も9割近くに上った。生成AIの普及について、「不安の方が大きい」との回答が58%となり、国民の大半は慎重な姿勢を示している。生成AIと共存していくためには、開発と規制の両立を図り、信頼や安全性を高めるための取り組みが欠かせない。

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世論誘導を懸念 86%

 調査は2024年3~4月、全国の有権者3000人を対象に郵送方式で実施。回答率は67%だった。生成AIで偽情報の作成が容易になり、世論が誘導される不安を感じるかどうかを尋ねたところ、「感じる」と答えた人は86%だった。偽情報が有権者の投票行動にどのくらい影響を与えると思うかでは、「影響を与える」との回答は、「大いに」(28%)と「多少は」(61%)を合わせ、89%に上った。

 今年、大型選挙が相次ぐ海外では、政治家らに偽の内容を語らせて対立候補をおとしめたり、支持する候補を礼賛したりする事例が確認され、影響力の大きい故人を使ったケースもあった。国内では、岸田首相や安倍晋三・元首相らの偽動画が投稿されて問題になった。こうした偽情報が選挙直前に出回れば、世論が左右され、投票結果をゆがめる事態も想定される。

 生成AIを使わない方がよいと思う分野を12項目から複数回答で選んでもらったところ、最も多かったのは「報道」の36%で、「選挙」と「安全保障・防衛」が各33%で続いた。これらの分野は、世論の誘導や情報操作が甚大な影響を与えかねず、人々の危機意識がはっきりと表れた結果だといえるだろう。

 生成AIによって大量の偽情報が広まるリスクがあるなか、情報の発信元の把握が「大事だ」との回答は、「非常に」(69%)と「ある程度」(28%)を合わせ、97%に達した。こうしたなか、偽情報対策の一つとして期待されるのが、日本発のデジタル技術「オリジネーター・プロファイル(OP)」だ。

 OPはネット上の記事や広告に第三者機関が認証した発信者情報を付与することで、利用者が情報の信頼性を確認でき、2025年の実用化を目指している。OPが必要だと「思う」との回答は93%と、期待の高さが表れた。

犯罪悪用「対策を」96%

 生成AIの利用や普及で不安に思うことを9項目から複数回答で尋ねると、「誤った情報が意図せず広まる」(63%)や、「偽の情報が拡散する」(60%)を上回り、トップとなったのは、「犯罪に悪用される」の65%だった。国内では、生成AIを悪用し、著名人の声を学習させたとみられる音声による詐欺が起きている。生成AIで家族や知人らになりすまして作られた音声などを判別できる自信が「ない」とした人は85%に上った。

 また、生成AIを悪用してコンピューターウイルスを作成したとして、今年に入り、男が逮捕・起訴される事件も起きた。逮捕された男は、IT技術を専門的に学んだことがなかったという。生成AIの性能や利便性は急速に進化する一方、犯罪悪用へのハードルは低下している。専門的な知識がなくても、違法な情報などを回答する規制の甘い生成AIを使用すれば、悪意のあるプログラム、偽サイトに誘導して個人情報や資産を盗み取る詐欺メールなどが簡単に作れてしまう弊害が顕在化しているといえるだろう。生成AIによる犯罪悪用について、何らかの対策を講じる必要があると「思う」は、96%と非常に高く、悪用への強い懸念が反映されたとみられる。

効率化に期待

米グーグルが発表した、生成AI機能を強化した新型スマートフォン「ピクセル9」(8月13日、米カリフォルニア州シリコンバレーで)
米グーグルが発表した、生成AI機能を強化した新型スマートフォン「ピクセル9」(8月13日、米カリフォルニア州シリコンバレーで)

 生成AIの普及については、「どちらかといえば」を含め、「不安の方が大きい」が58%と、「期待の方が大きい」の40%を上回っている。生成AIの機能は、インターネットの検索サービスやスマートフォンに搭載されるなど、身近なところで広まりつつあるが、調査では生成AIを「使ったことがある」人は17%と、まだ少数派だった。「使ったことがない」人は81%だった。「使ったことがある」人に用途を聞いたところ(10項目から複数回答)、最も多かったのは「文章の作成」48%、次いで「アイデア出し」40%、「文章の翻訳」37%、「検索エンジンの代わり」35%、「文章の要約」31%などと続いた。

 生成AI普及への期待と不安に関し、使用歴の有無でみると、「使ったことがある」人では「期待の方が大きい」が78%だったが、「使ったことがない」人では「不安の方が大きい」が66%と、多数だった。生成AIに対する不安感が、使用をためらわせている要因の一つだといえそうだ。「使ったことがある」人でも、22%が不安を感じていた。

生成AIの普及で業務の効率化などが期待される一方、世論誘導や犯罪への悪用といったリスクも懸念される(画像はイメージです)
生成AIの普及で業務の効率化などが期待される一方、世論誘導や犯罪への悪用といったリスクも懸念される(画像はイメージです)

 一方、生成AIの普及で期待すること(9項目から複数回答)を全体に尋ねると、「仕事の効率化が進む」が53%で最多。次いで「人手不足の解消につながる」が45%、「コストの削減につながる」と「人間によるミスが減少する」が各35%、「情報収集が簡単になる」が33%などだった。

 「仕事の効率化が進む」と答えた人は、「使ったことがある」人で79%、「使ったことがない」人で47%と、32ポイントもの差があり、実際に利用してみて、その利便性を実感している様子がうかがえる。ただ、生成AIには、実在しない事柄を事実のように回答する「ハルシネーション(幻覚)」などの問題も指摘されており、情報をうのみにすることは大きな危険も伴う。

著作権法「改正を」82%

 生成AIはネット上の膨大な情報を収集し、機械学習を行っている。2018年改正の著作権法では、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、AIが許可なく記事やイラストなどの著作物を機械学習することを認めている。こうした日本の環境は「機械学習パラダイス」ともいわれる。

 生成AIが著作物を無断で使用しないように、著作権法を改正する必要があると「思う」とした人は82%と、権利侵害への警戒感は強い。著作権のあるデータを生成AIが学習した場合、著作権者に対価を支払うべきだと「思う」との回答は76%だった。無秩序な利用が放置されれば、報道機関が打撃を受け、国民の知る権利が脅かされるほか、創作意欲の低下や雇用の喪失といった事態につながる可能性がある。権利者の団体などは法改正を求めているが、具体的な動きには至っていないのが現状だ。

 生成AIで作製したイラスト入りのパンフレットの配布や、生成AIで作った内容をたたき台にした劇について、SNSなどで「著作権侵害ではないか」「盗作になるのでは」といった批判が広まり、取りやめになった例もある。直接、著作権侵害に当たらない場合でも、十分な配慮が必要だといえるだろう。

分断への意識 期待と不安に差

 回答で気になった項目がある。生成AIの利用や普及で不安に思うこと(9項目から複数回答)で、9%と最も低かった「社会が分断される」だ。

 「分断」を選んだ人で、生成AIの普及について「期待の方が大きい」とした人は29%だったが、「不安の方が大きい」とした人では71%となり、42ポイントもの差が開いた。これは「人間の制御が及ばなくなる」の40ポイント差、「雇用が失われる」の28ポイント差などを抑え、9項目中で最大だった。分断に対する意識の違いも、生成AIへの期待感や不安感に作用しているようだ。

 生成AIの普及による社会への影響について尋ねた自由記述では、偽情報や犯罪悪用への懸念が多く寄せられたが、分断や格差に言及した内容も目立った。

 埼玉県の70歳代女性は「生成AIに対する知識が豊富な人と全くの素人で、物事に対する判断の正確性に大きな格差が出てくると思う」と不安を書いた。東京都の30歳代男性は、「リスクを低減できれば、非常に効果的だが、使いこなせる人とそうでない人で、様々なことに格差が生じると思う」と懸念を示した。

 「分断」に関しては、世論を誘導して社会の対立をあおるケースなどに加え、バイアス(偏り)や差別の助長というリスクも見過ごせない。生成AIは「社会の映し鏡」ともいわれる。機械学習のデータに、偏見や先入観、固定観念などが含まれていれば、生成物に反映される可能性があるからだ。

 偏りの可能性のあるデータから出力した結果を、生成AIが再度学習すれば、さらに偏った回答を「再生産」していくことにもつながりかねない。ネット上で自分の関心がある情報ばかりに包まれる「フィルターバブル」や、自分と同じような意見の人とばかりつながることで思考が極端化する「エコーチェンバー」といった現象が問題となるなか、情報を受け取る側が注意しなければ、社会の意識の分断が拡大する危険性がある。

開発と規制の両立望む

 生成AIがもたらすリスクへの対策について、「政府が積極的に関与して取り組むべきだ」との回答は65%で、「企業や業界の自主的な取り組みに任せるべきだ」の30%を大きく上回った。日本は生成AIの開発と規制のどちらを重視すべきかでは、「同じくらい重視すべきだ」が59%と両立を望む声が大半となり、「どちらかといえば」を含め、「開発を重視すべきだ」は21%、「規制を重視すべきだ」は16%だった。

 生成AIの開発は、国際的な競争が激化しており、技術革新への期待も大きい。一方で、学習したデータなどを公開しない企業もあり、仕組みがブラックボックス化していることへの批判も根強い。開発企業が、AIのモデルや学習データなどを公開しないことを「問題だ」とした人は、「大いに」(34%)と「多少は」(48%)を合わせて、82%。文章や画像、動画などを生成AIで作った場合に、そのことを明示する必要があると「思う」は90%に上った。

AIの法規制に向けた有識者会議であいさつする岸田首相(左から2人目)(8月2日、首相官邸で)
AIの法規制に向けた有識者会議であいさつする岸田首相(左から2人目)(8月2日、首相官邸で)

 日本はこれまで、AIの開発を成長につなげようと、規制に慎重な姿勢だった。しかし、欧米で強まる規制強化の動きを受け、政府は、生成AIの法規制などを検討する有識者会議を設置した。議論が進められており、政府は早ければ来年の通常国会に関連法案の提出を目指すという。

 安心で安全な生成AIを実現するためには、偽情報の生成や拡散を防ぐだけでなく、安全保障への対応、差別や人権侵害の抑制など、多岐にわたる分野での実効性ある対策が欠かせない。競争力強化を含めた開発と、安全性を確保するための制御のバランスを図り、生成AIと共存していくためには、世論の不安を (ふっ)(しょく) する取り組みを急ぐ必要がある。

プロフィル
岡本 裕輔( おかもと・ゆうすけ
 立川支局、社会部、盛岡支局、教育部などを経て世論調査部。世論調査を担当しながら、数字の裏側にある民意を探ろうと奮闘中。

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