「加藤の乱」から20年…元・反乱軍の二人、再び相まみえるか

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政治部デスク 芳村健次

 「あなたが大将なんだから。行くんならみんなで一緒に行こう」

 自民党の谷垣禎一氏が涙ながらに加藤紘一氏を引き留めるシーンを覚えている方も多いだろう。あの「加藤の乱」から20年を迎えた。

 脳 梗塞(こうそく) で倒れた小渕恵三首相を継ぎ、2000年4月に就任した森喜朗首相は、就任に至る経緯や度重なる失言で国民の信頼を失った。内閣の不支持率は7割を超え、野党は森退陣を声高に主張していた。11月、加藤氏は森政権の倒閣に動き出す。自ら率いる加藤派(宏池会)と盟友・山崎拓氏の山崎派とともに、野党の内閣不信任決議案に賛成する構えを見せ、森氏に辞任を迫った。

内閣不信任決議案に賛成票を投じようとして、同僚議員に引き留められる加藤紘一・元幹事長(2000年11月20日)
内閣不信任決議案に賛成票を投じようとして、同僚議員に引き留められる加藤紘一・元幹事長(2000年11月20日)

 ところが、野中広務幹事長ら党執行部の猛烈な切り崩しに合い、加藤派は分裂状態に陥る。加藤派幹部の古賀誠氏も鎮圧側に回った。反乱軍は急速に勢いを失い、11月21日未明、内閣不信任決議案は否決された。わずか10日余りで、加藤の乱は幕を閉じた。

 官房長官、政調会長、幹事長を歴任し、次期首相の最有力候補と目されていた加藤氏の政治家人生は一変する。加藤派は真っ二つに分裂し、ともに宏池会を名乗る事態となった。元事務所代表の脱税事件などを受け、加藤氏は02年に議員を辞職。03年に返り咲くが、12年衆院選で落選、16年に77歳で亡くなった。葬儀に訪れた山崎氏は、「いわゆる加藤の乱については、あれは止めなかった僕が悪かった。すまんというほかはありません」と弔辞で述べた。

 加藤の乱で反乱軍にいた一人が、宏池会(現・岸田派)を引き継いだ岸田文雄・前政調会長だ。9月に出版した「岸田ビジョン 分断から協調へ」(講談社)の中で、岸田氏は加藤の乱を「権力闘争の (すさ) まじさを肌で体感した」と振り返っている。世論を見誤った加藤氏の戦略ミス、勝つためにどんな策でも駆使する鎮圧側の執念――。そして、加藤派の事務所に集まる議員の数は日を追うごとに減っていったという。

 今月1日夜、岸田氏は石原伸晃、根本匠、塩崎恭久の3氏とドライマティーニの入ったグラスを傾けた。加藤の乱の最中、加藤派に所属した4人は石原氏の事務所に集まり、「ここまで来たら一緒に討ち死にしよう」と気勢を上げ、日本酒代わりにドライマティーニで固めの杯を交わした。以来、「ドライマティーニの会」と称して、毎年この時期に集まっているのだ。4人の今の立場は様々だ。石原氏は山崎氏から派閥を引き継ぎ、石原派を率いる。塩崎氏は無派閥。根本氏は岸田派で事務総長を務める。

自民党総裁選の公開討論会に臨む岸田政調会長(右)と菅官房長官(中央)(9月12日=肩書はいずれも当時)
自民党総裁選の公開討論会に臨む岸田政調会長(右)と菅官房長官(中央)(9月12日=肩書はいずれも当時)

 武部勤・元幹事長、甘利明・税制調査会長、林幹雄・幹事長代理、中谷元・元防衛相――。かつて反乱軍に加わった面々は、「処分に問わない」という執行部の方針もあり、その後も要職に就いた。反乱軍で唯一、政権トップまで上り詰めた「出世頭」が菅義偉首相だ。当時、菅氏は加藤派に所属し、森内閣打倒に向けて精力的に動き回った。その後は、加藤派から分かれた堀内派に所属。09年に派閥を抜けてからは無派閥を貫き、今年9月、事実上初めて無派閥で総裁の座を射止め、首相に就いた。

 宏池会を継いだ岸田氏と無派閥に転じた菅氏。加藤の乱を経て、加藤派で肩を並べた2人の道は分かれた。

 先の総裁選では岸田氏は菅氏に敗れた。岸田氏は加藤の乱の教訓として、「政治家として勝負をかけたときは、絶対に負け戦をしては駄目だ。その思いが、いまも私の胸に刻まれています」と著書に記している。来年9月には菅氏の自民党総裁任期が切れる。かつて反乱軍に身を置いた2人は、再び相まみえるのだろうか。

プロフィル
芳村 健次( よしむら・けんじ
 政治部次長。1997年4月入社。横浜支局などを経て、政治部で小泉純一郎首相の総理番に。首相官邸や自民党、防衛省などの取材も手がけ、現在はデスクとして主に政局を担当する。

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