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全国の警察に昨年届け出があった認知症の行方不明者は延べ1万9039人(前年比330人増)で、11年連続で過去最多を更新したことが警察庁のまとめでわかった。不明者の7割は当日に所在が確認されたが、発見が遅れると命に関わる。早期に所在を把握できたり、安心して外出できるように後押ししたりする取り組みが広がっている。
「道に迷った時、誰かに助けてもらえると思うと安心です」
東京都内のマンションで一人で暮らす認知症の女性(88)が語る。持ち歩くつえやリュックには、小さなステッカーが貼ってある。10桁のIDや電話番号が記されており、IDは無料の「みまもりあいアプリ」と連動。家族が、指定した半径20キロまでの範囲で、ダウンロード済みの地域の人たちに捜索依頼を出せる仕組みだ。
通知を受け取った協力者が、スマホに表示される当事者の顔写真や特徴をもとに近所を見回る。発見した場合、電話番号にかけ、IDを入力すると家族らの連絡先に転送され、状況や居場所を伝えられる。
アプリを運営する「セーフティネットリンケージ」(札幌市)によると、ダウンロード数は2017年4月の開始以降、約200万件。23年度の捜索依頼は4万5075件に上り、実際、協力者からの連絡で保護されたケースもある。高原達也代表理事は「協力者が増えれば増えるほど、発見できる可能性が高まる」と参加を呼びかけている。
外出先でのトラブルを民間保険を活用して補償する自治体の取り組みも進む。
長野県諏訪市は23年4月、個人賠償責任保険事業を始めた。市が保険料を全額負担し、加入者が誤って誰かにけがをさせたり、物を壊したりした場合、被害者に最大1億円が支払われる。現在16人が加入する。
こうした事業は、神奈川県大和市が17年11月に導入し、東京都葛飾区や神戸市など各地に広がる。きっかけは、07年に愛知県大府市で認知症の男性が一人で外出した後、列車にはねられ死亡した事故で、鉄道会社が遺族に損害賠償を求めた訴訟だ。最高裁が会社側の請求を棄却したが、認知症の人や家族の不安が高まった。
23年9月に事業を始めた大阪府豊中市の担当者は「家族がトラブルを心配し、認知症の人を家に閉じ込めてしまう恐れがある。こうした悲しい事態を防ぐ狙いもある」と説明する。