亡き母の味 守り継ぐ

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「鍋焼きラーメンのがろ~」(高知市)を経営 弘田里佐さん(54)

人気の鍋焼きラーメン店を切り盛りする弘田さん。「母の味を守る」と誓う(高知市で)
人気の鍋焼きラーメン店を切り盛りする弘田さん。「母の味を守る」と誓う(高知市で)
一番人気の「鍋焼きラーメン(おや鳥)」=がろ~提供
一番人気の「鍋焼きラーメン(おや鳥)」=がろ~提供

 昨年11月下旬、店を訪れた常連客の女性から1枚の走り書きしたメモを手渡された。「入院中、夜になって周りが静かになると思い出して、がろ~のラーメン食べたい食べたいとうなされるほどでした」。自分が作った一杯をそこまで思ってくれている。胸が熱くなった。メモは自宅の玄関に貼り、見るたびにがぜんやる気が出る。

 高知市北御座のとさのさと・アグリコレット内の店舗は午前10時の開店とともにカウンターに土鍋がずらりと並び、正午を待たずに店内は満席に。定番の「おや鳥」の鍋焼きラーメンが一番人気だ。鶏ガラと魚介系の特製スープに歯ごたえのある細麺が絡む。麺の上にのったキャベツやネギ、キクラゲ、竹輪、生卵が彩りを添え、鍋底には親鳥の切り身がごろごろ。運ばれてきた蓋を開けた瞬間、立ち上る湯気に食欲がそそられる。

 「土鍋の力はここから。(熱を伝える)蓄熱性が高く、麺や具材のうま味が絡み合って味が深まっていく。スープは一口目より最後の方がおいしいのよ」

 がろ~は1976年、鍋焼きラーメンの本場・須崎市内でオープン。もともとは母がアマチュア画家の作品を展示する喫茶店だった。定食や丼なども提供していたが、市内で鍋焼きラーメンがはやり始めた80年頃、客からの要望でメニューに加えると、次第に行列ができるほどの人気に。

 弘田さんも大人になって別の場所でお好み焼き店を切り盛りしながら母を手伝った。

 研究熱心な母はスープの改良を重ね、鶏ガラや魚介をふんだんに使った深みのある独自の味を生みだした。子どもからお年寄りまで地元の多くの人に愛された味。だが、8年前にがんを患い、誰にも教えていなかったレシピを弘田さんに伝え、2019年6月、71歳で亡くなった。

 その3か月後、弘田さんは母の味をより多くの人に広めたい、と高知市内にも店を構えた。計量や温度管理を徹底しスープの味を安定させ、「秘伝の味」を受け継いだ。

 「本当は母が調理し、私がプロデュースしていくのが理想やったのに。新しい店を見てもらえなかったことが残念で……」と涙ぐむ。

 店は多い日に200杯を超える注文がある人気店になった。現在は法人化し、12人のスタッフを雇う。ラーメン店に多い券売機は置かない。「後ろの人を気にしながらメニューを選んでもらうのはちょっとね」

 高校卒業後、接客が好きで飲食業を続けてきた経験から、客とのコミュニケーションを大切にする。常連客と「いつものよね」と会話することが楽しい。調理場に立つことが多いが、できるだけフロアにも出る。食材の高騰で昨年4月にやむなく値上げをしたが、客足は途切れない。理解して来てくれているんだと思うとうれしくなる。

 だが、悔やんでも悔やみきれないことがある。仕事に夢中になり過ぎて闘病中の母と向き合わなかったことだ。「なぜもっと会話できなかったのか」と。だからこそ天国の母に心から誓う。「子どもの頃から親しんできた母の味は私がこれからもしっかり守っていく」(小野温久)

<鍋焼きラーメン>  須崎市民のソウルフード。戦後間もない頃から1980年頃まで同市の路地裏で営業していた「谷口食堂」が発祥とされ、その後、市内で提供する店が増えた。約20年前から市も協力し、「鍋焼きラーメン・プロジェクトX」と銘打ってPR活動を展開。ブームとなり、現在は市内で約30店舗が営業。高知市などにも進出している。

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5025353 0 土佐のひと 2024/02/11 05:00:00 2024/02/11 05:00:00 2024/02/11 05:00:00 /media/2024/02/20240210-OYTAI50003-T.jpg?type=thumbnail
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