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現在進んでいる東京・渋谷のNHK放送センターの建て替え工事を巡り、第2期以降の工事が「抜本的見直し」を迫られている。BS波の削減やリモートワークの進展といった業務や職場環境の変化に加え、昨今のインフレもあり、基本計画策定時から状況が大きく変わったからだ。これまでの流れを踏まえ、課題に迫った。(文化部 辻本芳孝)
1期工費60億円増、抜本的見直しへ
「ここNHKホールの目の前では、新たに報道・情報発信の拠点となる情報棟の建設が大詰めを迎えている。次の時代の報道を担う重要な施設になる」。4月に開かれたNHKの入局式で、稲葉延雄会長が新人たちを前に胸を張った。
ホールの隣には既に、階段状の外観が特徴的な情報棟が姿を現している。ここにニュースセンターやラジオセンター、国際放送スタジオが置かれる。
放送センターは、1964年の東京五輪の翌年に運用を開始。半世紀が過ぎ、手狭さや老朽化のため、現在地での建て替えが決まった。2016年にまとまった基本計画は、紅白歌合戦の会場でもあるNHKホールを除き、全ての建物を36年までに建て直すとしていた壮大な内容だ。
情報棟はその1期工事で、20年に着工し、25年に一部運用が始まる予定。27年開始見込みの2期以降の工事では、制作や事務の部門が入る「制作事務棟」、体験型施設「スタジオパーク」が入る「公開棟」などを順次整備していく。だが建設計画は未定だ。稲葉会長は4月の定例記者会見で「放送波の整理・削減やリモートワークの活用を始めとするオフィス改革などが進んだことを念頭に、抜本的な見直しを進めるべきだと考える」と語った。その後、6月19日の定例記者会見では、建物の規模も含めて計画を練り直していることが明かされた。
バーチャルプロダクションで制作費を大幅削減
見直しを迫られた理由の一つが、資材価格や人件費の高騰だ。1期工事の費用は約600億円を見込んでいたが、約60億円増えたと2月の経営委員会で報告された。2期以降の建設費は1100億円を想定しているが、現状、価格高騰は収まる気配がない。NHKはコスト削減に努めるとしているものの、費用はふくらむ恐れがある。
昨年10月に受信料を1割値下げした影響で、NHKは今後3年間で1000億円という巨額の支出削減を迫られている。建設費の積み増しは難しそうだ。
稲葉会長は会見で、放送設備やスタジオのあり方も「これまでとは随分違ったものになる」と言及。最新技術を「漏れなく取り込みながらやっていく」とした。
NHKが近年多用している技術の一つが、LEDパネルに映し出したCG(コンピューターグラフィックス)の映像に、美術セットなどを組み合わせる「バーチャルプロダクション」の手法だ。制作費を大幅に削減でき、スタジオを有効に使える。屋外シーンもスタジオで撮影でき、大河ドラマ「どうする家康」は合戦シーンを含め映像の8割にこの手法を用いた。
資金が限られる中、新センターはどうあるべきなのか。模索は続く。
川口にスタジオ増設、渋谷は空きスペースの用途検討へ
計画見直しのもう一つの理由が、埼玉県川口市のさいたま新産業拠点「SKIPシティ」に建設中のスタジオ施設「川口施設(仮称)」の存在だ。
川口施設は20年に基本計画ができ、建設費約210億円で、ドラマや音楽番組用に四つのスタジオを整備するとした。放送センターの建て替えに伴い、ドラマスタジオが解体される間の代替機能の確保という狙いもあった。
だが22年になり、渋谷と川口にドラマ制作機能が併存するのは「効率性に課題がある」とし、川口施設に集約する方針に変更された。そのため、川口施設は隣の敷地にスタジオを二つ増設する。一方で、新センターの制作事務棟に整備予定だったドラマスタジオは不要となり、空いたスペースの利用法の検討が必要だ。
また、制作の拠点が渋谷から川口に移ると、通勤など生活も変化を余儀なくされることになり、制作陣からは不安や不満の声もあるという。今後、どう理解を得て計画を進めていくかも課題となりそうだ。