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災害の多発や感染症の流行で、自衛隊の役割はかつてなく増している。待遇や職場環境を改善して、質の高い人材を確保することが大切だ。
政府は、年末に予定している国家安全保障戦略や防衛計画の大綱などの改定にあたって、人的基盤の強化策を検討している。
昨年の国会では、予算の制約から、一部の自衛官が自腹でトイレットペーパーなど日用品を購入していたことが問題となった。岸防衛相は「びっくりした」と述べ、自費購入の解消を約束した。
高卒で入隊した自衛官の初任給は、長年、警察官の水準を下回っていた。政府は2020年度、ようやく警察官と遜色のないレベルに引き上げた。
自衛隊は、本来の防衛任務や災害派遣に加え、近年は新型コロナウイルス対策の医療支援や、感染症にかかった家畜の殺処分など多くの任務をこなしている。
職務の特殊性を考えれば、処遇の改善は不可欠だ。特殊勤務手当の内容を見直して給与水準を引き上げ、隊員の士気を高めたい。
少子化が進む中、自衛隊の採用環境は厳しい。自衛官は現在、約23万人で、定員の93%だ。特に艦艇や潜水艦の乗組員や、サイバー分野の人材が不足している。
自衛隊のサイバー要員は、今年3月に発足した「サイバー防衛隊」と、陸海空3自衛隊の関連部隊を合わせて約890人だ。単純には比較できないが、中国のサイバー戦部隊は17万人以上とされる。
防衛省は、デジタルやAI(人工知能)に精通した人物を手厚く処遇する人事制度を整え、着実に専門人材を確保する必要がある。防衛大学校にサイバーに関する学科を新設し、教育体制を充実させることも検討してはどうか。
自衛隊の施設は、老朽化が指摘されて久しい。
全国に2万3000棟余の自衛隊施設のうち、約3割は耐用年数を過ぎている。香川県の陸自善通寺駐屯地の隊舎は築55年、鹿児島県の海自鹿屋航空基地の庁舎は築86年だ。災害時に部隊が被災してしまう懸念がある。
防衛省が、戦闘機や護衛艦といった正面装備の調達を優先し、施設の整備を後回しにしてきた影響もあるのだろう。
自民党は、施設整備費を含めた防衛費の大幅増を主張している。自衛隊の深刻な勤務環境を放置することはできないが、日本の財政は危機的だ。政府は優先順位を定めて、計画的に建て替えや耐震改修を進めなければならない。