夕刊popstyle

劇団唐組に新しい風!若手起用し「泥人魚」上演…紅テントが熱い

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

役者の身体が躍る。ユーモアと叙情あふれる劇詩人・唐十郎さん(84)の言葉が弾み、 (あか) テントが熱く揺らめく――。昭和の騒乱の時代にアングラ演劇の象徴となった紅テントを伝説の劇団・状況劇場から継承し走り続ける劇団唐組で、若手による新しい波が起きています。テント設営を始め制作全般を役者が手がけ、雨にも風にも負けず公演を敢行する驚異の集団が、満を持して傑作「泥人魚」に挑みます。なぜ今、若者は紅テントで燃えるのか。

シルバニアファミリーに大人も夢中!シル活はストレス社会の癒やし

傑作「泥人魚」21年ぶりの再演

劇団唐組
劇団唐組

今月上旬に東京都杉並区の稽古場を訪ねると、ブリキを加工する道具や湯たんぽなどの小道具が並び、昭和に迷い込んだようでした。

「泥人魚」は2003年初演。その頃、世間の注目を浴びた長崎県の諫早湾干拓事業が題材です。当時のニュースでは湾を分断する鋼板がギロチンのように落下する映像が衝撃的に報じられましたが、劇中ではその様子をブリキ板を並べて表現。唐さんが干潟の泥海を模した水槽に飛び込む場面もあり、話題を呼びました。

唐組として21年ぶりの再演。若手が抜てきされ「唐組新時代」と呼びたくなる顔ぶれで臨みます。

「なにを温めそこなったのか おいらの愛しい湯タンポ (とりで) ――」

ギロチン堤防をめぐって分断された海の町を去り、都会のブリキ店で暮らす元漁師・蛍一を演じるのは福本雄樹さん(30)。初演で唐組の看板、稲荷卓央さんがつとめた大役です。

高校の時、俳優をやってみたいと進路指導の先生に相談し、日大芸術学部に進学。唐さんの息子で同じ大学の大鶴佐助さんに誘われて見たのが「 海星(ひとで) 」(12年春公演)でした。唐さんはこの公演期間中に大けがを負い、いまだ復帰はかなっていません。「意味は全然分からないのに、熱が伝わってくる。最後に(舞台後方が)ぱっと開いて、鳥肌が立った。稲荷さんに憧れて、やってみたいと思いました」

現在は唐組に籍を置いていませんが、前回に続いて主役で客演。外から魅力が見えたといいます。それは詩的で想像力を際限なく駆り立てる「唐さんのことばの魔力」。「自分の中で(役が)つながっていれば、自分の芯から言葉が出てくる。クルクルクルって唐さんに釣り糸で引っ張られているみたいで、こんなに速くしゃべれたのか、と思うことがあります」

感動のあまり直訴

〈とつぜん来てごめんなさい。みんなは毎日、泥だらけでやっている〉。海の町から蛍一を追ってくるヒロイン・やすみ役の大鶴美仁音さん(32)は父である唐さんの公演を5歳のころから見ていますが、「泥人魚」は「特に記憶に残っている。やすみ役の藤井由紀ちゃんはそれまでと違うヒロインとして出てきた。唐さんが違う世界観で書いたのだと思いました」

人前で話すのが苦手で、紅テントに自分が出るとは夢にも思いませんでした。が、17歳の時、唐さんが寺山修司さんにささげた「ジャガーの眼」(1985年初演)を映像で見て感動のあまり直訴して、紅テントに立ちました。そこは、「唐っ!」などと役者に声が飛び、ござにひしめく観客たちに舞台から汗や水が飛び散る世界でした。「お客さんとのキャッチボールがすごく楽しい」

フリーの女優として活躍した時期もありましたが、唐組に20歳の女性が入団したのを見て、「私も本腰を入れなきゃ」と、2019年の「ジャガーの眼」公演のあと、劇団員になりました。

心強い女優陣

心強いのは、舞台の上も縁の下も支える女優陣です。常識から逸脱した役柄で光る福原由加里さん(34)は、日大芸術学部を経て演劇の制作会社に就職しましたが、「たくさんお金をいただき、忙しくもないけれど、心がわくわくしない」。よみがえったのが在学中に見た紅テントでした。「情熱あるものは、門をたたけ」。劇団員募集の告知に「唐組って入れるんだ」と知り受験し、16年に加入。「唐さんの本は、何年前の作品でも新鮮なごはんを食べている感じ。今に通じることが必ずある」

神戸市の湊川公園に出現した紅テント
神戸市の湊川公園に出現した紅テント

演出助手や衣装も担当する加藤野奈さん(43)は演劇を志して27歳で岐阜県から上京。1年養成所で学び「いい芝居ないね、自分たちでやろう」と仲間と劇団を結成します。初めて見た唐組は、犬のオブジェを背負って唐さんが登場する「夕坂童子」(08年春公演)。「分からないのに最後は涙が出ちゃう。その秘密を知るには、作ることに参加するしかない」と17年に入団。昨年2月の若手公演「赤い靴」では演出も経験しました。

耳の穴からコーヒーを出すウェートレス(昨秋公演「糸女郎」)など強烈キャラが似合う升田愛さん(25)は、19年入団。舞台系の専門学校の先輩が、劇団・新宿梁山泊を手伝うというので見に行った唐さん作「ユニコン物語」に衝撃を受け、「一度も見ていないけれど唐組でやってみたい」と受験しました。唐戯曲は「発想がすごいなあと思う。こんなことを想像で書いていると思うと」と感嘆しきり。今後は「地方公演を増やし、いつか海外でも」と夢を語ります。

ベテランに聞く

「泥人魚」や今の唐組についてベテラン3人に聞きました。

久保井研さん(座長代理)…主軸担える若手にチャンス

『泥人魚』は面白い芝居だと思ってもらえたし、やっていて楽しかった。今、若い人とどういうふうに作っていくかを考えるのは、すごく楽しい。

裏方の仕事は、芝居が分かってないとできない。自分がどんなことをどんな立ち位置でやるか理解できないと、集団の中で自分を生かせない。劇団で居場所を見つけることが、物語の中で自分がどう存在するのかを考える回路になる。そこを経験して物語の主軸を担える若手が何人か出てきた。今回、チャンスを与えて鍛えるのにいいテキストかなと思った。

藤井由紀さん(制作兼務)…ふわっと疑似ご近所みたい

左から、稲荷さん「サービスはするけど迎合はしない」、藤井さん「紅テントは魂の容(い)れ物」、久保井さん「すべては戯曲に書いてある」
左から、稲荷さん「サービスはするけど迎合はしない」、藤井さん「紅テントは魂の容(い)れ物」、久保井さん「すべては戯曲に書いてある」

唐さんから『やすみって役を書いたよ』と言われて、すごくうれしかった。ただ、当時は自分のことだけで精いっぱい。今回は唐さんのセリフの深さと広さを今更ながらかみしめている。

唐組は特に変わってないと思う。唐さんがこだわるもの、教え込まれたものを、演出を受けたことも会ったこともない子たちにどう伝えるか。もう一度、自分はどう演出してもらったか考えています。

カリスマがいて、疑似家族みたいだった唐組が、今はもう少しゆる~く、疑似ご近所みたい。集う場があって、いいセリフの教科書を共有して、ふわっとそれぞれがいる団体性がいいなあと思います。

稲荷卓央さん(看板役者)…僕らなりの解釈伝えていく

蛍一役の福本君を見ていると、蛍一も正義だけでなく揺れ動きがあったんだなと気づく。作品が深化していく。50を過ぎて、見つけたぞ、があると、続けてきてよかったと思う。

唐組を受け継いでくれる子たちが何人か出てきた。これからも紅テントは翻ってほしいし、唐さんの匂いを消したくない。唐さんは何を大事にし、テントでやる意味をどこに見ていたか、 矜持(きょうじ) と覚悟をもって僕らなりの解釈を伝えていきたい。僕らがガッチリ固めていけば、若手はまだまだ伸びていく。僕らも、そうやってもらってきたんだろうし。

新人に聞く

稽古後、近所の馬橋稲荷神社で春公演巡業の無事を祈願
稽古後、近所の馬橋稲荷神社で春公演巡業の無事を祈願

〈1〉なぜ唐組に
〈2〉唐組とは
〈3〉将来の夢は?
※カッコ内は年齢・入団年。50音順、敬称略。

岩田陽彦(はるひこ)(21歳・2022年)
〈1〉芝居以前に劇場すらも役者が創ってしまうことに対し、ここの役者は他とレベルが違う、僕もそうなりたいと思い入団〈2〉生きる活力〈3〉唐組で主役を張って、もっともっと色んな人に劇団の魅力を知ってもらう

金子望乃(のの)(22歳・22年)
〈1〉言葉を大切にしている劇団だと思ったから〈2〉軸〈3〉北の端から南の端まで、様々な場所で公演をする

重村大介(41歳・21年)
〈1〉唐組の“運動”(スタイル)に憧れて〈2〉出逢(であ)い〈3〉「AERA」の表紙

高橋直樹(24歳・23年)
〈1〉作品が好きだから〈2〉自分の甘さを知る場〈3〉唐さんの言葉をもっとしゃべる!

壷阪麻里子(35歳・22年)
〈1〉コロナでスタートラインに並べられたように思い、飛び込むなら今しかないと感じた。会社や店の倒産・閉店が続き「勝手に続くのではなく、続かせていくための何らかの努力が必要」と感じ、一端を担いたいと思った〈2〉憧れであり、勉強の場〈3〉「次の世代へバトンタッチしよう」というぐらい、紅テントを続けていく

西間木美希(28歳・21年)
〈1〉「さすらいのジェニー」(20年秋公演)を観(み)て寝てもさめても忘れられず熱に浮かされてしまった〈2〉日常と夢の境界線〈3〉古道具屋

藤森宗(33歳・20年)
〈1〉参加してみて一番大変だったから〈2〉社会〈3〉海外公演

舟山海斗(24歳・24年)
〈1〉人生修行〈2〉一つの舞台〈3〉一流の役者

泥人魚

2003年の「泥人魚」初演
2003年の「泥人魚」初演

唐さんが長崎県の諫早湾周辺を取材して劇作。都会の片隅にあるブリキ加工店と、諫早湾の漁師町を結んで展開する。読売文学賞(戯曲・シナリオ賞)、鶴屋南北戯曲賞、紀伊国屋演劇賞などに輝いた。

今公演には南河内万歳一座の内藤裕敬さん、荒谷清水さんも客演。今後の日程は▽東京=新宿・花園神社 5月5、6、10~12日、6月1、2、6~9日▽東京=雑司ヶ谷・鬼子母神 5月18、19、24~26日▽長野=長野市城山公園ふれあい広場 6月15、16日。19時開演。(電)03・6913・9225

(読売新聞文化部 山内則史/写真・安川純)

プロフィル
唐組(からぐみ)
劇作家・演出家・役者の唐十郎さんが主宰する劇団。時空を超えて飛躍する郷愁と滑稽とロマンあふれる劇世界へ観客をいざない続ける。かつて唐さんは状況劇場を率いて寺山修司さんらとアングラ・小劇場運動をリード。1967年に東京・新宿の花園神社境内に初めて建てた紅テントは、都会のノイズを皮膜一枚で隔てた劇的空間で、状況劇場解散後の89年に旗揚げした唐組に継承された。現在は、若い頃から唐演劇の心・技・体を至近距離で吸収してきた最古参の久保井さんが演出している。

popstyle(ポップスタイル)は、読売新聞夕刊で水曜日に掲載。尖った企画を大胆なレイアウトでお届けする新感覚カルチャー面です。夕刊発行地域以外でもご購入いただけます。購入方法はこちら
スクラップは会員限定です

使い方
「大手小町」の最新記事一覧
記事に関する報告
5315428 0 大手小町 2024/05/02 06:00:00 2024/05/02 06:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2024/04/20240430-OYT8I50048-T.jpg?type=thumbnail

主要ニュース

セレクション

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)