「無事を祈っていましたが、午後1時過ぎに、4人が救助を求めて泣きながら降りてきました。下山中に雷が落ちたと。
2人が犠牲になり、防災ヘリコプターで病院に搬送されましたが、1人がお亡くなりになりました」
当時のニュースによると、死亡したのは67歳男性。大手企業の元役員で山仲間と一緒に登山に来ていたという。山をまったく知らない初心者だったとは思えない、まして分別盛りの人たちが、なぜこんな無謀な行動をとってしまったのだろうか。
だが、山における“分別盛りの無謀な行動”は、決して珍しいことではないらしい。
「登山中のケガや体調不良で診療所を受診者する方は、60代が一番多いですね。それも初心者ばかりでなく、登山経験者も多い。若い頃登山をしていたけど、仕事が忙しくなってやめていた。定年退職を機に再開し、日本百名山の登頂を目指す、みたいな方たちです。そういう方々は、体力や経験を過信した行動をとりがちです」
警視庁が発表した「平成29年夏期における山岳遭難の概況」によると、全体の遭難者705人のうち、40歳以上は559人で、実に80%近くを占めている。しかも死者・行方不明者のうち、40歳以上は93%にあたる63人に上る。中高年登山者は、若い頃の何倍も、注意深く、慎重であるべきだ。
以下、齋藤医師が遭遇した、中高年の登山経験者にありがちな危険行動のエピソードを紹介してもらった。
昔使っていた雨具
再利用で生命の危機に
「豪雨に降られて低体温症を起こし、動けなくなった人で、雨具が古くて役に立っていない人がいましたね。槍ヶ岳のような高山では、真夏でも荒天時には体感気温が0度近くまで下がります。特に服をぬらすのは命とりですからね、雨具は防水性の高い、セパレートタイプのものを持って登るべきなんです。ところが、中高年登山者には、昔、登山していた時に使用していた雨具を、押し入れからひっぱり出して持参している方が結構多いんです。
すると防水機能が劣化していて、雨水が染みこみびしょぬれになる。そこを強風に吹かれて体温を急激に奪われ、低体温症になってしまうんですね」