(2)高山に登る前には低山でシミュレーション
自分にどれくらい体力があるのかを知っておくことも大切だ。1000~1500m程度の低山で、実際の登山に必要な荷物を背負い、本番と同じようストックも持って長時間歩いてみよう。
「体力のほか、膝や腰など、どこが故障しやすいかなども分かります。たとえば、足がつりやすいとかね。私も、足がつるのが心配なので、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)という漢方薬を必ず持って行くことにしています。自分の弱点を知り、補う準備をするのは、中高年の登山者にとって大変重要なことだと思います」
(3)こまめな水分補給を心がける
水は重たいので、荷物を軽くするために、つい量を減らしたりしがちだが、これは危険。診療所を受診する人の多くは、脱水症状に陥っているという。
「受診される方で一番多いのが熱中症と高山病です。皆さん、水を飲むのを我慢して、登ってくるんですね。この2つは脱水との関係が深く、水を飲んでいただくだけで、回復することが多いです。汗をかいて失われる塩分を補うために、塩分入りの水がお薦めです」
(4)グループ登山では「遠慮」はリスク
中高年の経験者では、単独で登って遭難する人も多いが、グループでの登山には、つい無理をしてしまう「遠慮」というリスクがある。
「朝から風邪気味だったとか、寝不足だったとかいう方が、他のメンバーに遠慮して、戻りたいと言い出せず、結果、途中で動けなくなるケースはとても多いです。グループで登るなら、ペースは一番体力のない人に合わせ、無理して頂上を目指さない。余裕を持って、写真でも撮りながら、マイペースで登るのが一番です」
(5)携帯の予備バッテリーを持つ
荷物は軽い方がいいに越したことはないが、いざという時のために、持っていると安心なのが携帯電話の予備バッテリーだ。
「この頃は便利になって、携帯で救助要請をしてくる人も増えています。ただ、山は電波が悪いところも多く、バッテリーの消耗も激しいですからね。予備のバッテリーはぜひ持っていた方がいいでしょう」
さらにもう1点、齋藤医師が「必携」と力説するのが、45~70リットルの大きなゴミ袋だ。
「軽くてかさばらないし、雨風が強い時には、雨具の上からすっぽりかぶって防寒できる。高山は夏でも、荒天時には0度近くまで下がる。身体がぬれれば低体温症になり、生命の危険もある。ゴミ袋1枚で命拾いすることもあるでしょう」
8月11日は「山の日」。中高年登山者の皆さんにはぜひ、気持ちを引き締め、体調を万全に整えて、安全に登山を楽しんでいただきたい。
医師、東京慈恵会医科大学槍ヶ岳山岳診療所・管理者/東京慈恵会医科大学 分子免疫学研究部教授
ベテラン登山家でもある齋藤医師。「僕も年を取ってきましたからね、この夏はストックを持って槍ヶ岳診療所に行ってみました。やっぱり楽でした」と笑った。