免疫療法を受けたいと言うと
医者から見放されてしまう
そのため、「研究室内ではネズミでそれっぽい結果が出ているけど、人間の患者に対しては眉唾だよね」と蔑む医師もいた。
製薬業界で、オプジーボの開発を続けてきた小野薬品工業が「変人」扱いされていたように、世界では競い合うように研究されている免疫療法は、日本の医療界では「エビデンスの乏しい治療」と軽んじられてきたのだ。
「本庶氏のノーベル賞でインチキ免疫療法までもが盛り上がって心配だ」と騒ぐことも重要かもしれないが、その前に「免疫療法を受けたい」というがん患者の声を握り潰してきた過去を反省して、「標準治療至上主義」ともいうべき教条主義的思想を改めることの方が先のような気がしてならない。
少し前、「原発不明がん」という治療が難しいがんで「ステージ4」と診断されて余命宣告も受けたが、免疫療法によって見事、生還を果たした60代男性から、耳を疑うような話を聞いた。
この男性が回復してほどなく、古くからの友人2人が相次いでがんだと診断されてしまった。両者とも進行が早く、医師から「もう効く抗がん剤はありません」と非情な宣告をされた。そこで、彼らは藁をも掴む思いで、免疫療法を受けさせてほしいと医師に頼んだ。何しろ、自分たちの友人が免疫療法で生還をしたのだ。そこに「俺も」という一筋の希望を持つのは当然のことだ。
だが、2人の担当医から返ってきたのは、耳を疑うような言葉だった。
「そういう治療を望まれるのなら、もうここには来ないでいただきたい」
結局、医師から見放されることを恐れたこの2人は、免疫療法を受けたいという気持ちを抱えながら、そのまま還らぬ人となった。
ノーベル賞受賞後、マスコミは「本庶氏の研究によって、多くの患者が救われた!」とお祭り騒ぎをしている。だが、実は本庶氏の研究を知り、そのような治療を自分も受けたいと強く望みながら、亡くなった患者の方が、救われた人よりもはるかに大勢いることもしっかりと報道すべきではないのか。
インチキ免疫療法に引っかかる人たちの多くは、抗がん剤が効かず、自分の医師から「免疫療法なんかエビデンスのない怪しいものです」と諭され、誰にも頼れなくなった「がん難民」である。その弱みにつけ込む詐欺師が悪いのは当然だが、ではそこまで患者や家族をまともな判断ができなくなるまで追いつめたのは、いったい誰なのかという問題もある。
あっちの免疫療法はインチキだ、本庶氏の免疫療法は本物だ、騙されないように気をつけようと触れ回るだけでは「がん難民」を救うことはできない。エビデンスに代表される、「数字で証明できる有効性」のみに固執するのではなく、今そこでがんで苦しむがん患者やその家族に、どうにか手を差し伸べる方法を考えることが、「医療」のやるべきことなのではないだろうか。