年金の将来不安の理由の1つは、高齢者(65歳以上)1人を支える現役世代(15~64歳=生産年齢人口)が少なくなっていくことだが、それも検証してみよう。

 内閣府のデータによれば、15年には高齢者1人に対し現役世代は2.3人だったが、50年には1.3人になる。年金財政検証の結果はこうした生産年齢人口の減少を織り込んだ上での数字になっている。

 それに注意しなければならないのは、これは人数だけの数字で、年金で重要なのは金額、つまり人数×所得だから、一定の経済成長があり給料が増えていれば支える力も増すのだ。

3%名目成長は
控えめな目標だ

 残念ながら、「失われた20年」と言われる過去20年間は名目GDPが増えず、給料も増えていない。だがこの20年が異常なわけで、そんな状態だったら年金だけでなく、ほかの制度も続かない。

 これまでの蓄えがあったから20年間持ったのだろうけれど、同じようなことがまた20年間続くならば年金のみならずすべての制度が破綻する。

 しかし名目GDPで平均3%ぐらいの成長を続ければ、年金制度は維持できる。財政検証の8通りの成長率シナリオのうち、上から3番目の実質成長率0.9%(ケースC)を達成できれば、物価上昇率2%で名目3%成長というのは、決してむちゃな数字ではない。

 この見通しが楽観的といわれるが、世界を見ても、20年間も名目経済成長率がゼロという国はない。日本の経済成長率は、世界200ヵ国中、1990年代、00年代はビリのグループだ(リーマンショック時を除く)。

 先進30ヵ国でももちろんビリだが、そこからちょっと抜け出して25位ぐらいが名目3%だ。トップクラスの名目6%、7%を目指せるというなら楽観的かもしれないが、ビリに近くてもOKというのだからかなり控えめではないだろうか。

 経済成長について、世界のビリに近い水準を達成すればいいということを考慮すれば、出生率が悪い方に転んだとしても給付額が計算結果よりもせいぜい5%減るぐらいだろう。悲観シナリオを想定するならば、それが一番可能性は高い。いい方に転べば、逆に増えることだってあるかもしれない。

 月の給付額が10万円とすれば、9万5000円になるか、10万5000円になるかというレベルの話だ。5%減るぐらいならば、それを破綻とはいわない。

 デフレを完全脱却し2%の物価上昇率と名目3%の成長を実現すれば、社会保障破綻に至る悲観シナリオはほぼあり得ない。

 読者にぜひ見てもらいたいのは、誕生月に日本年金機構から送られてくる「ねんきん定期便」だ。

 筆者は現役官僚時代にこの「ねんきん定期便」の実現に関わったが、そこに将来受給できる年金額の見込みが書かれている。これまでのところ、その数字が大きく裏切られたとは聞いていない。

 その数字を丹念に見れば、年金財政が破綻するかどうかはわかるはずである。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)