私は1976年生まれ、42歳のJJ(熟女)である。

2018年、平成最後の年はまさに「終わり」を感じる出来事が多かった。
フジテレビの看板バラエティ番組の終了、オウム事件の犯人の死刑執行、小室プロデューサーやアムロちゃんの引退、さくらももこさんや樹木希林さんの死去。
女優の菅井きんさんも亡くなった。私が子どもの頃からおばあさんの印象が強かったので、今150歳ぐらいかと思っていたら、享年92歳だという。

そんな終わり感の漂う年に「まだだ、まだ終わらんよ!」と彗星のごとく現れたのが、ISSAさんである。

20代の頃、私もカラオケで「俺の行く末密かに暗示する人Honey!」をやったものだ。そんな彼が「U.S.A」を歌い踊る動画を見た時、その変わらないルックスとキレキレのダンスに「変若水(おちみず)でも飲んだのか?」と驚いた。
そして、一緒に見ていた夫の「これは日米安保の歌だな」という言葉にさらに驚いた。

「日本はアメリカの属国だと歌っている。このパシフィックオーシャンという歌詞は、大西洋はアメリカの勢力圏という意味だろう」と夫は語り、「なんだこの動きは?」と聞いてきたので「これはインベーダーダンスだ」と教えると「インベーダー、侵略国という意味か」と頷いていた。

たぶん全部間違っているが、ひさびさにISSAさんの姿を見て、懐かしい友人に会ったような気分になった。ちなみに懐かしい友人から連絡がくると「誰か死んだか?」と思うのもJJあるあるだ。

2018年はMe too運動やセクハラ問題など、女性差別が可視化された年でもある。その集大成と言えるのが、東京医科大の入試不正問題だろう。

同様のことは一般企業でもずっと行われてきた。新卒の内定者のうち女子はたった1割、みたいな企業もザラにある。人事の担当者から「もし性別関係なく採用できるなら全員女子を採用したい、それぐらい女子の方が優秀だ」といった声もよく聞く。

こうした話を聞くたび、怒りで血管が96本ぐらい切れる。私にはあと何本の血管が残っているのか。
その怒りは「下駄を履いた男」へと向けられがちだが、その下駄は奴隷の鎖につながれているとも言える。

「女は出産や育児で長時間労働ができない」の裏には「男はプライベート無視で奴隷のように使い潰せる」がある。「女の締め出し」と「男の使い潰し」はセットであり、そんなアンハッピーセットはいらねえ!と男女共に言いたいだろう。

男だって「奴隷になれるのは男だけだぜ、ヒャッハー!」と喜んでいるわけじゃない。父親も早く帰れて育児できる方が、家族みんながハッピーだろう。実際、出生率の高い先進国は男女が子育てしながら働ける環境や制度が整っている。

それに育児や介護といった理由だけじゃなく、家でストゼロ飲みながらネトフリ見るために定時に帰れる世界の方がいいに決まってる。男も女も未婚も既婚も奴隷にならなくていい、我々はそんな世界を望んでるんじゃないか。

「女は締め出していい」「男は使い潰していい」はいずれも性差別であり、本当の敵は誰なのか?と考えると、それは「プライベートを犠牲にして働け」と圧をかけてくる人々だ。

2018年、ネットの世界では女VS男の戦争が過熱している。女が「○○は女性差別だ」と言うと「××だって男性差別だ!」と男がキレて、女が「日本は男尊女卑だ」と言うと「いや女尊男卑だ!」と男がキレる。

そんな男のキレ芸を見ていると「男性車両もメンズデーもくれてやるから、給与も雇用も男女逆転していいんだな?」と銃口を向けたくなるが、それだと戦争は終わらない。

本気で男性車両やメンズデーを求めるのなら、鉄道会社や映画会社に訴えればいいのだが、彼らの本音はそこじゃない。「俺はこんなにつらいのに、女はずるい!」「俺はこんなに我慢してるんだから、お前たちも我慢しろ!」とキレているのだ。

誰が見ても、キレる方向を間違っている。「そんなにつらいなら、現状を変えるためにアクションすべきじゃないですか?」とチンパンジーのパンくんですら言うだろう。「我々チンパンジーは差別されている、だからゴリラも差別されろ!」という思考では、世界は地獄のままである。

20代の女性医師の読者から、こんなメールをもらった。
「入試不正問題について、病院の上層部は『女性の入学者を制限するのは当然、女性が増えたら現場が困る』という認識で、現場を変えていこうという意識はなく、歯がゆさでいっぱいです」
「医者の世界では、そこまで忙しくない科で働く男性医師は、超激務の科の男性医師から馬鹿にされています」

「俺の方がつらいんだー!」と殴り合う、奴隷マウンティング
奴隷の中で序列を作るって、SMクラブですか?とムチでビッシビシしばきたくなるが、このマウンティングの根っこには「男は弱音を吐くな」「つらくても我慢しろ」というジェンダーの抑圧があるんじゃないか。彼らは「つらくても我慢してる俺は偉い」と認めてほしいんじゃないか。

一方、女同士はつらさでつながれると思う。お互いに弱音や悩みを吐き出して「わかる!」「つらいよね~!」と仲良くなれる。そんなふうに、男と女もつらさでつながれるといいのに。

「上司に『女は出産すると働けなくなる』とか言われて、超ムカつく!」
「わかる!俺も『嫁さんもらわないと出世できないぞ』とか言われた」
「まったく余計なお世話だよね」
「ほんとプライベートに口出すなよ」
「よし、一緒にコンプライアンス室に訴えようか!」
とバキュームカーに同乗すれば、世界を変えていけるだろう。

男と女でウンコをぶつけあっていても、何も変わらない。それどころかウンコで視界を奪われて、真の敵が見えなくなる。現状で誰が得をしているのか?を考えれば、ウンコを投げるべき相手がわかるだろう。

日本の社会は男も女もどっちも地獄だが、地獄の種類が違う。男は「ひたすら奴隷として働け」というシンプルな地獄だが、女は地獄のラインナップが多い。

「少子化だから子どもを産め」「労働力不足だから働き続けろ」「保育所不足だから自分で何とかしろ」「そんなに働いたら子どもが可哀想」「ついでに女を忘れずキレイにしろ」と無理難題をふっかけられて、羽生竜王に勝つぐらい優秀なAIでも「この腐った世界をぶっ壊す…!」と中二な答えを出すだろう。

だが私は世界をぶっ壊したいわけじゃないし、三条友実の漫画のように、家畜化した男が女のウンコを食う世界を築きたいわけでもない。
一生懸命に子育てする女友達を見ていると「この子ども達が今より幸せに生きられる未来にしたいな」と思う。

そんな42歳のJJが子ども達に伝えたい言葉は「イヤなことはイヤと言おう」だ。男も女もつらい時はつらいと言っていいし、「セクハラもパワハラも笑顔でかわせ、それが賢い大人」なんて言葉に騙されないでほしい。

昭和生まれの私はテレビっ子だったが、今はほとんどテレビを見ない。若者じゃないJJ達もテレビ離れしていて「自分の見たいドラマやアニメだけ録画して、それ以外は見ない。特にバラエティは絶対見ない」と声をそろえる。

前回『バラエティ番組で老害タレント達を見ると、昭和にタイムスリップした気分になる』と書いたが、あまりの時代遅れ感にめまいがするし、まとめて爆破して「きたねえ花火だ」と言いたくなる。

大御所芸能人たちはセクハラ&パワハラ芸を披露して「尖っている」つもりだが、完全にスベっている。笑っているのは身内のタレントとスタッフだけで、視聴者はうんざりしてテレビを消しているのだ。

「視聴者のクレームを気にして、規制だらけでテレビがつまらなくなった」と彼らは言うが、自分達のアップデートできてない笑いが古くてつまらないのだ。
昔『ごっつええ感じ』でダウンタウンが「くさやダンゴムシ師匠」に扮して「時代遅れの大御所芸人が若手に説教する」というコントをしていたが、いまやテレビはくさやダンゴムシ師匠だらけである。

以前『スッキリ!』にアリアナ・グランデが出演した時、近藤春奈に対する見た目イジリに一切笑わず、「あなたはシュレックにもマイケル・ムーアにも似てない、すごく可愛いわ」と語りかけていた。それを見て、日本のテレビの幼稚さが恥ずかしくなった。

また、近藤春奈の「小学生の時にクラスで『ブタ!』と呼ばれて、変な空気にならないように笑いに変えたのが自分の原点」という話を聞いて、悲しくなった。

私も小学生の時に男子にブタと呼ばれたことを、今でも覚えている。中学時代は道ですれ違った男子達に「見ろよあのデブ」と笑われて、鏡を見るのも外出するのも怖くなった。それから絶食や過食嘔吐をして、半年ほど生理が止まった。
私の母は「男に選ばれる美しい女でいなければ」という呪いに囚われたまま、拒食症で亡くなった。

近藤春奈は『街中でカップルの彼氏がハリセンボンとキスしたら1万円あげる』という企画をやらされた、という話もしていた。そんな番組を見て、一体誰が笑うのか?

「ポリコレを気にしてたら面白いことができない」と言うなら、それは単に才能がないのだ。ポリコレの基準がわからないなら教えてやる。「自分の娘や息子が同じことをされたら笑えるか?」と考えてみればいい。

私は弱いものイジメや差別を見て笑えない。それを笑いながら「子ども達の未来のために」なんて二枚舌を使う人間には、死んでもなりたくない。

というわけで、私は今日も元気にブリブリ怒っている。子ども達にも「イヤなことされたら空気なんか読まなくていい。我慢せずに怒ればいい。まっとうに怒れるのは心が健康な証拠だから」と言いたい。

「子ども達の未来のために」という言葉をよく聞くが、これだけ寿命が延びると、その未来に自分達も生きている可能性がある。同い年のJJは「父方と母方の祖母が97歳と95歳で存命で、100歳を超える勢いだ」と話していた。

そんな話を聞くと、42歳の自分はまだ半周いってないのかも?と思う。医療がさらに進化すれば「まだ終わらんよ!」と言いながら、2080年まで生きるかもしれない。

2080年なんてSFの世界だ。未来のJJはロケットで宇宙に出かけて、ZOZOTOWN月面ショップでお買い物しているかもしれない。つまり、未来は他人事ではないのだ。

ちなみに、その頃も元号はまだあるのだろうか。地球(がいあ)とか宇宙(こすも)とか、キラキラ元号がついていたりするのか。
まあ元号は何でもいいが、今よりはマシな世界であってほしい。そのために自分に何ができるのか?を考える、平成最後の秋なのであった。

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