そんな風に言っておいて、こんな話を持ち出すのはマッチポンプみたいで申し訳ないのだが、「スマホが1台売れると誰がどれだけ儲かるか」をご存じだろうか。アメリカの経済学者、ロバート・ライシュ氏は、iPhone1台が売れたときの代金が最終的にどこの国にどれだけ流れるかを計算している。

 iPhoneが1台売れた場合、アップルの本社があるアメリカの取り分は全体の6%、製造拠点である中国の取り分は4%、どちらも実は大したことがない。iPhone端末の販売で一番儲かる国は、実は日本である。

 iPhoneの部品は日本の部品メーカーの部品でなければ成立しないし、iPhoneのケースを削ることができるのは、日本の工作機械や工業用ロボットだけである。日本経済はiPhoneが売れるたびに、その代金の34%を懐に入れているのである。

 携帯電話の契約の際、大手携帯3社は端末代金の値引きによって、見た目上は携帯利用料が非常に安くなる料金プランをつくっている。そのことで一番潤っているのは、実は日本の製造業なのだ。携帯端末の使い捨てや無駄遣いをやめてしまうと、日本経済は少なからず失速してしまう。

消費者にとってはよくても
日本経済にとってはよくない

 ということで、携帯大手の料金引き下げ政策は、総務省や消費者にとってはよくても、格安SIM会社がなくなって雇用が減ったり、日本の製造業の売上が少なくなったりと、日本経済全体には悪影響を及ぼす政策になりかねない。

 では、どうしたらいいのだろう。そもそも格安SIM会社を育てる総務省の政策のお陰で、現在の日本の携帯電話料金は、実はイギリス並みに安くなっている。だから、これ以上の値下げ圧力は、政府としてはやめたほうがいいのではないか。

 私にとって、今回の話はそれくらい唐突な発言に見えるのだが、どうだろうか。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)