そうすればB社は考えるだろう。「今日のことだけを考えれば値下げをした方が得だ。しかし、明日以降のことも考えれば、値下げをしない方が得だ。それなら、値下げはせずに価格を維持しよう」と。
これで、世の中は平和に収まるというわけだ。ただし、公取委にカルテルが見つかって罰せられなければの話だが。
ライバル会社を脅す狙いの
「最安値を保証します」
では、公取委に見つからない方法はあるのだろうか。A社は考えた。B社と契約をするからいけないのであって、単独で行動すればいいのだと。そこでA社は店頭に大きな張り紙をした。「わが社は、この街で最安値を保証します」と。
顧客向けの広告のようにも見えるが、実はこれ、B社に対する脅しなのだ。B社のスパイがA社を視察しにくることを前提とし、B社に見せるための張り紙なのだ。「分かっているだろうな。お前が値引きをしたら、俺らも直ちに値引きするからな。もちろん、お前が値引きをしなければ俺らもしない。仲良くやろうぜ」という意味なのだ。
こうした張り紙は、家電量販店などで、よく見掛けるはずだ。売っている商品がライバル店と同じなので、価格の比較が容易だからだ。
しかし、大型の小売店はプライベートブランドで勝負するとライバルとの価格比較が困難だし、銀行融資はライバルとの価格比較(借り手の信用力、金利、担保などの条件比較)がそもそも困難だから、なかなか過当競争が止まらないのである。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)