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(弓子)森山涼次さん。この人 才能あるよ。 映画化決定。
(祥平)俺がそれ撮っちゃ駄目でしょうか?
俺が監督しちゃ駄目ですか?
(横田)あっ 先生 お戻りで。すいません 今日 校了で…。
何か もう 電話呼ばれちゃって…。横田さん。
私 映画化決めたから。え?
この「名前のない鳥」元住吉祥平さんに監督してもらう。
えっ…。
(斑目)いや しかしそれは 森山涼次君が先生の作品で監督デビューしたくて2年もかけて書いたホンでして…是非 彼に。
え~っ! だって!
佐野弓子 初めての映画化よ!
新人に撮らせるなんて…。
ここは是非 コート・ダジュールで賞も取った元住吉さんに。
♪~
♪「おはよう 世の中」
♪「夢を連れて 繰り返した」
♪「湯気には生活のメロディ」
♪「鶏の 歌声も」
♪「線路 風の話し声も」
♪「すべてはモノラルのメロディ」
♪「涙零れる音は」
♪「咲いた花がはじく雨音」
♪「悲しみに青空を」
♪「つづく日々の道の先を」
♪「塞ぐ影に」
♪「アイデアを」
♪「雨の音で歌を歌おう」
♪「すべて超えて届け」
♪~
(涼次)俺じゃ駄目って事ですか?
(斑目)いやいやいや…。
どうしても元住吉祥平がいいって佐野弓子先生が。そうじゃないと原作渡さないって。
俺じゃ駄目なんすね。
あっ でも うれしいです。
このホンは認めてもらえた訳だし俺の書いたホンを 祥平さんに撮ってもらえるなんて夢みたいです。
♪~
(鈴愛)何で それ!? 信じられない。えっ 涼ちゃんのホンじゃん!
涼ちゃんが2年かけて書いた脚本じゃない!
うん… ごめんね 鈴愛ちゃん。せっかく応援してくれてたのに。
この2年 鈴愛ちゃんに大納言で働いてもらって僕はほとんどホンばかり書いてて。そんな事はいいんだよ!
でも 涼ちゃんあんなに頑張ったのに…。
何で 祥平さんが撮るの!?涼ちゃんのホンじゃん!
また次 頑張るよ。
♪~
<「名前のない鳥」の映画化決定は大変な話題となりました。まだ 誰も見た事もない世にも美しいとされている鳥を見つける話>
野鳥が たくさん出てくるでしょ?映画に。
(麦)うん。 知ってる。涼ちゃんの脚本読んだから。
キンケイ マクジャク セイラン。
私 佐野弓子は鳥 知ってると思ったね。
それでどこに どんな鳥がいるかとか鳥の生態とか詳しい人に手伝ってほしいって 祥平さん。それで麦おばさん。
(めあり)あ~ら いいじゃな~い。
麦ちゃん そもそも祥平さんお気に入りなんだから。
それこそいいチャンスじゃな~い。
ああ 私 出会った時から恋に落ちているのに手をこまねいているうちに月日が過ぎ…!
(光江)ほやけど あんたも人がええなあ。
映画監督 祥平さんに取られてもうたんやろ。
取られるとかそういうんじゃないから。
(麦)鳥は すごいです!あの小さな体でどこまでも飛びます!
地球全部が鳥の家です。
いいなあ。 麦さんの鳥の話。光栄です。
失礼します。
あの…。
はい?
お加減 大丈夫ですか?
何か随分 お疲れのようで。あっ いえ…。
あの これからもいろいろ教えて下さい。
お願いします。はい…。
♪~
(戸の開閉音)
ただいま。
涼ちゃん…絵コンテまで切ってたの?
お帰り。あっ 貸して。 手伝うよ。
(チャイム)
は?私ではなくやはり 涼次が撮るべきです。
何をおっしゃってんですか?いきなり呼び出したかと思ったら。
そんな話 通る訳がない。
製作委員会は 佐野先生の原作と祥平さんの名前で出資を決めそして 公開するセイホウ映画も今更 監督交代なんて うんって言うはずないじゃないですか?
いえ。これは 涼次が撮るのが筋です。
冗談じゃない。
そもそも原作者の佐野弓子先生が森山涼次じゃ駄目って言ったんですから!
そんな どこのどいつか分からないようなやつじゃ駄目って!いや そんな事は言ってない!
いや そういう事でしょ?
元住吉祥平が撮るんだったらなんとか 作品にも箔が付く…。
なんとかなんて ごめんなさい。
いや 分かってますよ。
俺じゃなくて 岩井俊三や北野武則が撮った方が集客が見込めるって事だろ!
(斑目)もう… もう やめましょう。そんな揚げ足取り。
ちょっと頭冷やして下さい。失礼します。
はい どうかしら?
えっ!? ちょっとメーク濃くない?
このくらい いっといた方がいいんですよ。
先生 お客さんです。ん?あら 元住吉監督撮影の準備 快調?
すいません お忙しいところ突然。
ごめん ちょっと。はい。
失礼します。
(弓子)大丈夫 ここ オートロック。あ…。
この脚本は 森山涼次のものです。
そうね。
彼に返したい。 返さなきゃ。
何 言ってるの?彼に撮らせてやって下さい。
森山涼次を監督デビューさせてやって下さい。
お願いします!
でも 原作者の佐野弓子が元住吉祥平でないと原作は渡さないと言ったんじゃなかった… っけ?
世の中的にはそういう事になってる… わよね?
本当は違いますよね。
あの時 先生は 森山涼次に撮らせるおつもりだった。
それを 俺が俺に撮らせてくれって。
そう。 捨てられた小犬みたいにね。
あの時の あなたの目見苦しかった~。
ああ 仕事ないんだなあ~って。フフッ。
誰もいなくって私たち2人だけで。
魔が差しました。
どうしたいっての?
今から仕切り直して涼次が これを撮って…。
そんな事できる訳ないでしょ。もう 出資も映画会社も決まってそれひっくり返せる訳ないでしょ?
私 親近感 覚えたんだよね。え?
私 物書きのくせに大学出てないの。
うちもお金なくて。 だから虎視眈々とチャンスを狙って。
そう。 出版社の近くで喫茶店でバイトしたりして。
そしたら出版社の人と知り合えるかも。
テーブルの下に名刺落ちてて偉い人のだったら届けに行くの。
ほら 顔覚えてもらえるかもしれないでしょ。
そうやって一つずつ 階段上ってきたの。どんな小さなチャンスも見逃さないですばしっこい猫みたいに。見苦しい事いっぱいして。
(弓子)あの時のあなたの俺を使ってくれって目がああ 明日に震えてた時の自分みたいだって思ったのよね。
でも あなた いい人なんだね。
いい人は駄目よ。この世界で生き残っていけないよ。
悪い人にならないと。
競争なんだから。1等賞でテープ切ってもまたすぐ次のレースがある。
そうやって ず~っとテープに向かって走り続ける。
それが この仕事。
(ノック)
・先生! そろそろスタジオ入って下さいって!
(弓子)了解~!
(弓子)本番なんで行きま~す。
映画楽しみ~!
初号試写でお会いしましょう。
♪~
鈴愛ちゃん お代わりは?あっ 私は…。
いらない?うん。
[℡]
祥平さんだ。[℡]
はい もしもし。
涼次 ごめん。
え?
許してくれ…。
[℡](不通音)えっ? 祥平さん?
祥平さん?[℡](不通音)
どうしたの?
いや…。
♪~