──数学を学び、視野が広がったと感じることはありますか。
世界がどのように成り立っているのかを考える時に、数学は極めて論理的な思考方法を与えてくれます。「現代数学は専門的で役に立たない」という人がよくいますが、大間違いですよ。
数学は進化して、あらゆるものを抽象化してきました。一見、世間から遠ざかっていくように見えますが、逆です。抽象化が極限まで進むことで、世の中で数学の対象にできないものは、ほとんどなくなっていると感じます。実用的に何か計算できるかどうかは別ですが、数学で扱えない現実世界の問題なんてものは、ほぼないのです。
──数学専攻の学生の獲得競争は、米国では激しいものの日本ではあまり重用されていません。
今後、数学を勉強した人の価値は上がりますよ。今の日本は、数学と社会が隔絶しすぎです。AIやディープラーニングを学ぶ新卒学生に1000万円出す企業はあるのに、現代数学専攻の学生にそれだけの額を提示する企業がないのはおかしい。日本の社会は数学科の出身者をもっと尊敬し、待遇を上げなければいけません。一方、数学を専攻した学生側も、実社会にもう少し関心を持ってほしいですね。
──「誰もが微積分を学ぶべき」と社内で発言したと聞きました。
記憶にないです。わざわざ発言する理由もないぐらいに当たり前のことですね。もし言ったとするならば、学ぶべきという趣旨ではなく、「微積分の考え方は、文系の人でも普通に使っている」という意味でしょう。
例えば、売り上げ増を評価する時に変化率を調べ、ぐんと増えているのか、微増なのかをチェックすることは微分ですし、将来の売上高の試算は、積分的な考え方を使っていますよね。微積分は要る要らないを議論するまでもなく、必要なことは自明でしょう。僕が主張するのだとすれば、今の大学が学部の数学科で教える程度の内容は、全ての人が基礎教養として学ぶべきだということです。
──数学が苦手な社会人は、まだまだ多いですよ。
世界の秘密を知りたいという欲求を持っているならば、数学を諦めることは人生を諦めることと同じだと思いますけどね。