今後、ディープラーニングは間違いなく人類の歴史を変えるでしょう。だから今、数学をやらない選択肢はありえない。なぜなら、現在のディープラーニングは実験科学的な手法に偏って発達しています。しかし、理論的に正しい設計というものもあるはずです。その理論を見つけるためには数学的な素養が必要でしょう。

──AIは、もっと理論的に突き詰めることができる、と。

 ええ、僕は人間の脳も現在のディープラーニングの技術の延長として、数理モデルで説明できるようになると考えています。最近、ディープラーニングを数学で解釈するという論文が出始めています。東京工業大学の加藤文元教授とドワンゴのAIチームで、そうした論文をいっしょに読む勉強会を、今年から始めました。1年以内に、僕らでも何か1本、論文を出そうという意気込みです。

──数学で学びたいことのゴールはあるのでしょうか。

 ただ知りたいだけなんです。分かったら、別の分からないことが生まれて、関心はどんどん移っていく。今の興味は「保型形式」ですね。

 僕は、仕事をすることが退屈で仕方がない。結果が分かっているのに、結果が出るまでには半年かかったりして、かったるくてやっていられない。それを数学を勉強することで、何とかごまかして毎日を過ごしているのです(笑)。

 小学校で習った最大公約数とか、二度と後の人生で勉強することはないと思うでしょう。ところが、現代数学では基礎的な算数が形を変えて登場する。例えば、約数とかの話は「イデアル」として再登場して、「可換環論」へとつながる。ああ、小学校の算数はこれを学ぶためのサンプルで、たんなる伏線だったんだなと感動します。

 高校までの数学は、プロローグに過ぎません。大学以降の数学を学べば、それまでの数学はこのためにあったのだと分かる。その感動をぜひ多くの人に知ってほしい。

 現代数学は、これからの人類に絶対必要な最低限の教養です。人間の知性が到達できる限界点を教えてくれるものでもある。そして残念ながら、僕も含め、ほとんどの人が身につけていない。でも挑戦するに値するものだし、たまたま現代に“生”を受けた僕らにとっては挑戦しなければ、あまりにももったいないと思うのです。