二つ目の「コミュニケーションが難しい」ことについてはどうでしょう。精神障害者とのコミュニケーションについては医療や福祉の専門家ですら悩むくらいですから、「積極的にコミュニケーションをとろうとしない」というのが現実的な答えです。多くの場合、周囲は精神障害の社員に対して始めは積極的に仲良くしようとします。しかし思ったほどうまくいかず、そのうち態度を変えてしまう人も少なくありません。

 実は、この「はじめ仲良く」がNGなのです。その理由は、仲良くしようと考えたあなたへの精神的な影響です。「はじめ仲良く」と考えた理由や動機が、「ハンディのある人に優しくしなければ」ということであれば、偏見と受け止められかねません。

 実際は、「はじめはそっけなく」、次第にコミュニケーションを増やしていくほうがより適切です。専門家でないあなたにできることは、精神障害の社員に対して『あなたのためを思って』『良かれと思って』と思わないことです。

 ちなみに、精神科医向けの専門書には「治療の効果と限界を知る必要がある」と書かれています。気分障害(うつ病・躁うつ病)の患者に周囲が対峙するときに医療や治療の限界を知らなければ、自分が精神的な影響を受けてしまい、危険だと説いています。

 また、福祉施設に関する研究をしている大学教授は、「忙しい時に障害者への言葉がきつくなり、後で自分を責めてしまう」「障害者に対して自分の感情をコントロールできなくならないか不安だ」という職員の悩みに触れ、「障害や個性に応じた言動行動が常に求められ、精神的に疲弊しやすい。自己嫌悪に陥る職員も多い。職員の心身の安定が重要」と訴えています。

突然、無頓着な態度に?
見た目ではわからないから共感できない

 精神障害の社員がいる職場では、実際にどんなコミュニケーションにまつわるトラブルが起きやすいのでしょうか。もっと具体的に見て行きましょう。

 たとえば、メンタル疾患社員の中には、普段は質問にはきはきと答え、丁寧な言葉遣いをする礼儀正しい人が、突然、周囲の人に対して無頓着な態度をとることがあります。周囲の人はこのギャップに戸惑い、共感ができない場合もあります。何かの拍子に「相手の気持ちをもっと考えて」と注意する場面もあるでしょう。障害のせいで「深い反省ができない人」に、ミスを深く反省するよう迫ることもあり得ます。そのような行為はいずれ、「障害を理解してくれない」「同僚の配慮がなく差別された」という彼らの不満につながることがあります。

 さらに、ネットの情報や出版されている情報には、「障害者を悪者扱いしている」と言われそうな内容は出づらく、抽象的な表現が見られる傾向があります。例えば、広汎性発達障害について厚労省「みんなのメンタルヘルス」は、「自分の話したいことしか口にせず、会話がつながりにくいことがしばしばあります。初めてのことや決まっていたことの変更は苦手で、なじむのにかなり時間がかかることがあります」と説明しています。この情報だけで、彼らに対する職場での対応をイメージするのはとても困難です。

 一般的に、広汎性発達障害は「対人関係・コミュニケーションの障害」と説明され、「臨機応変な対応が苦手」とされています。「臨機応変が苦手」なのは業務だけでなく、人間関係にも及びます。つまり、当事者にとっては「今まで親切だった人が、急に冷たくなる」ことにも対応できないということです。対応できずに体調が悪くなったりプレッシャーで出社できなくなったりする人もいます。それを見た目から判断できませんから、障害があることを忘れても問題にならない所作を身につける必要があるのです。