雇用率が0.2%増加すると、社員1000人の会社が雇わなくていけない障害者は、これまでの20人から22人へと増えます。民間企業全体では新たに約8万人の障害者雇用義務が見込まれます。現在、法定雇用率を達成している会社は48.8%(厚労省平成28年障害者雇用状況)ですから、さらに上回る可能性があります。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を背景に、雇用率達成を至上命令にしている会社もあるくらいです。

 雇用率達成を目指す会社では新たに障害者を求人しなくてはなりませんが、実は応募してくるのは精神障害者ばかりになる可能性があります。

 今年6月に内閣府が公表した「2017年版障害者白書」によると、精神障害者数(392万4000人)が、初めて身体・知的障害者数を上回りました。厚労省が公表した「平成28年度障害者の職業紹介状況等」では、精神障害者の求職件数・就職件数の増加だけが目立ちます。身体・知的障害者の求職数は減少傾向・増減なしですから、「雇用率アップ」に即応するには精神障害者を雇うしかなく、事実上それが義務になるということです。

 結果、来春から多くの精神障害者が世の中の会社で働くことになるでしょう。みなさんが職場で一緒に働く場面も増えるはずです。私は障害者に特化した日本初の労働組合(ユニオン)の書記長として、企業社会における障害者への漠然とした不安、いわれのない偏見を払拭すべく奮闘しています。入社してくる精神障害者と職場で円滑に過ごし、協力して仕事の生産性を上げて行くためにはどうしたらいいのか。誰もが心得ておくべきポイントを解説しましょう。

精神障害者への
合理的配慮とは何か?

「合理的配慮」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。障害者に対する差別を禁止した法律で使われる専門用語で、障害がある人の人権が障害のない人と同じように保障されるとともに、社会生活に平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困り事に合わせて行われる配慮のことです。ところが、「車いすの従業員には多機能トイレ設置を」といった身体が不自由な人への配慮と違って、精神障害者への配慮はイメージしにくいのが現実です。

 私なりの言葉で説明すると、受け入れる側が意識するべきことで最も重要なのは、「来るもの拒まず的な対応を」ということになります。どのような人が来ても拒まず受け入れるには、まず先入観を捨てなければいけません。そして、健常者の価値観や常識を精神障害者に一方的に押し付けないことが大切です。そのためには、「見た目からは障害がわからない」「コミュニケーションが難しい」という2つの事実を知らなければいけません。

 一つ目の「見た目からは障害がわからない」ということは、周囲に障害者であることを忘れさせてしまいます。ですから周囲は、彼らが障害者であることを忘れても問題にならない所作を普段から身につける必要があります。普段から誰にでも同じように接していれば問題ありません。事務的な対応くらいが適切です。

 見た目が普通ですから、無意識のうちに「きちんと話せばわかるだろう」と思って対応しがちになりますが、多くの人は精神障害者をイメージしにくいので、自らの中で「都合のいい障害者像」をつくり上げてしまっているのです。